季節外れのドラフト談義(セイバーメトリクスを交えて)

この季節にドラフトの話をするのもなんであるが、プロ野球の球団にとって、ドラフトの成否はその後の栄枯盛衰を分ける重要な要素である。だからこそスカウトに力を入れ、また籤運を祈るわけであるが、ドラフトは籤運もさることながら、選手の入団後の成長パスの不確実性や故障リスクなどもあって、どうしても「当たり外れ」が生じてしまう。

また、獲得時点では予測不可能な要素のほか、ドラフト等の制度要因もドラフトの成否を決定づける要素となっている。カープの90~00年代にかけての低迷は、逆指名制度などの制度要因が影響した可能性が高い。この仮説は、ファンの肌感覚からして論ずるまでもないことのように思えるが、あえてセイバーメトリクスの「WAR(Wins Above Replacement)」を使って分析してみた。

WARを使った分析

WARは、各選手が(そのポジションの)「代替可能選手」に比べ上積みした勝利数を示す指標であり、WAR値の高い選手がいるチームは、その分多くの勝利数を得られていることになる。そこで、①ドラフト等でカープが獲得した各選手について、カープ在籍期間中の各シーズンのWAR値を累計することにより、その選手が生涯を通じてカープにもたらした通算勝利数を試算し(以下「カープ通算WAR」という)、②「カープ通算WAR」値を、獲得年ごとに全選手分合計することにより、各年のドラフトが、通算でいくらの勝利数を調達する成果をあげたと事後評価できるのか、試算してみた(詳細な試算方法は本記事末尾の(参考)参照)。

この試算方法に基づき、各年のドラフト(制度創設された65年~18年)で調達した通算「貯金」(勝率5割を上回る勝利数)”をグラフにすると(図表)のとおりとなる。正の値をとるほど、多くの「貯金」をもたらし、負の値をとる場合には、それだけの戦力では勝率5割がおぼつかないことを意味する。

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グラフからみてとれること

グラフ中、各年ドラフトで調達した通算勝利数の実数は折れ線のとおりであるが、年による増減が大きいため、傾向をつかみ易くする観点から、60年代後半、70年代前半・・といった5年単位で平均値を拾ったのが棒グラフである。これをみると、70年代前半が不作時期となるなど「当たり外れ」はあるものの、やはり逆指名制度が存在した時期(90~00年代前半)には、かなり長期にわたり、ドラフトで十分な「貯金」を作れるだけの勝利数を調達できていなかったことがみてとれる。00年代後半から再び有効な戦力調達に成功しだし、16年からの3連覇の原動力になっていったといえる。鯉党の間で時折提起される「カープはスカウトや育成が上手」という議論は、FAによる補強を行っていないことを裏側から表現したという場合のほか、この時期の成功を評しているのではないかと思われる。

ただ、10年代後半にかけて、「今のところ」ドラフトでの十分な勝利数の調達が図れたと評価できるに至っていない点には留意が必要である。むろん、10年代後半以降の入団選手のカープ通算WAR値が高くないのは、まだ入団から年数が経っておらず、各選手ともキャリアハイに到達していない(特に高卒選手)ことによるところが大きいが、特に大卒上位指名組には、今シーズン中にも復活ないし一層のブレイクを見せて欲しいし、高卒組も、坂倉選手や遠藤投手、小園選手に続くプロスペクトの台頭を祈るばかりである。


(参考)各年ドラフトで調達した通算勝利数の試算方法

①選手ごとの「カープ通算WAR」を算出

・まず、ドラフト等でカープが獲得した全選手(ドラフト外<1974~92年>を含む。外国人枠での獲得は含まない)について、「日本プロ野球記録」(2689web.com)に依拠して、ごく簡易な方法でシーズンごとのWARを算出(ここでのWAR算出方法については別記事をご参照ください)。
・例えば、アライさん(98年ドラフト6位)の場合、WAR値は、99年:ゼロ、00年:1.31・・・06年:4.19、07年:3.84、15年:1.17、16年:2.92、17年:1.32、18年:ゼロ、などと算出されたところ、これらを単純に合計。ただし、08年~14年は別球団に移籍しており、そこでの活躍はカープに勝利をもたらすものではないため、算入しない。因みに、アライさんの「カープ通算WAR累計」は28.29となった。
(注)WAR値は負値になる場合があるが、「カープ通算WAR」の試算上、出場機会のなかった選手よりマイナスに評価するのはアンバランスであるため、負値については「ゼロ」として算入。


②獲得年ごとに全選手の「カープ通算WAR」を合計

・例えば98年ドラフトについては、アライさんや東出さん(ドラフト1位)をはじめ8名の選手を獲得しており、これら8名分の「カープ通算WAR」を合計。

 

グラフ作成上の調整

ややテクニカルな説明になるが、グラフでは、各年のドラフトで調達した通算勝利数が「30」をどの程度上回って(ないし下回って)いるか表示している。これは、仮に代替可能選手(WARがゼロの選手)だけでチームを構成した場合に想定される勝率は3割程度といわれており、外国人やFA制度に依存することなく5割の勝率を確保しようと思うと、勝率でいうと2割分――勝利数にひき直すと、年間約140試合×2割=約30試合――のWAR値をドラフトで調達する必要がある、との考え方に基づくものである。

なお、通算WARでヒストリカルなグラフを描くと、まだ在籍年数の浅い現役選手が不利にみえてしまうため、便宜上、入団からの年数が10年に満たない選手については、10年程度はカープで活躍を続けると仮定して補正を施している(例えば9年目のカープ在籍選手については、通算WARを1割増、8年目の在籍選手については2割増)。