サイクル安打考

カープの歴代外国人選手の記録について調べようとデータを振り返っていたら、ふと、直近のサイクル安打の達成者がロサリオ選手(2014年9月2日、対読売)であることに気付いた。今年で70年目を迎える球団史上、サイクル安打の達成者はロサリオ選手を含め、というか、山本浩二さん、衣笠祥雄さんというレジェンドをはじめとし、6名(※)いるようだ。

(※)山川武範(1952年6月26日)、大和田明(1959年6月20日)、衣笠祥雄(1976年7月7日)、山本浩二(1983年4月30日)、金本知憲(1999年4月24日)、ライネル・ロサリオ(2014年9月2日)(達成順、敬称略)

サイクル安打の確率

平成以降(1989年~)のサイクル安打達成回数は計34回(31人)であり、この間の試合数が計25,731試合であったので、一の試合でサイクル安打がみられる確率は0.13%程度となる。これを1シーズン(12球団・143試合)中にみられるサイクル安打の達成回数の期待値に計算し直すと1.13回となる。

それでは、算術上、サイクル安打の発生確率はどの程度とみることができるのだろうか。ひとつの試算を行ってみた。
試算方法は、まず1試合中に巡ってくる「打数」の確率分布を求めるとともに(1.)、「打数」ごとにサイクル安打を達成できる組み合わせ・確率を求め(2.)、これらを掛け合わせることにより、サイクル安打達成確率を算出するというものだ。

1.1試合中に巡ってくる「打数」の分布

いうまでもないことであるが、サイクル安打は試合中に4打数以上が巡ってこないと達成不能である。すなわち、打順が3回しか巡ってこなかった場合や途中交代となった場合など、打席数自体が3以下で終わったケースや、四死球や犠打などを含む「打席数」は4以上巡ってきたが「打数」が3以下に終わったケースには、サイクル安打は成立し得ない。
また、試合中の打数が4である場合には、その全打数を単打・二塁打三塁打本塁打の組み合わせ(順序は問わないが)で決めなくてはならないが、打数が5、6、7・・と増えていくにつれ、凡打がでたり、単打が複数でたりした場合にも達成可能性が残るため、サイクル安打の達成可能性が高まる。

そのため、サイクル安打の発生確率を計算するにあたって、まずは試合ごとに巡ってくる打数の分布をみる必要がある。

ここで、次表のとおり、プロ野球セ・パ両リーグの2019年シーズンの各試合中の打数の分布を拾ってみた(代走、中継ぎ投手などで打数ゼロのケースを除いて表記)。

また、1試合あたりの打数は、平成以降(1989~2019年)のセ・パ両リーグ全体の平均をとると33.57打席であり、次表の分布割合どおりだとすると、1試合あたり(全33.57打席)ごとの選手ごとの平均的な打数分布は、4打数の選手が10.98人、5打数の選手が3.17人、6打数の選手が0.24人、7打数の選手が0.01人と計算される。

f:id:carpdaisuki:20200721210100j:plain

1試合中の打数の分布

2.「打数」ごとにサイクル安打を達成できる組み合わせ・確率

次に、巡ってきた打数(4打数、5打数、6打数、7打数)ごとのサイクル安打の達成確率を計算する。

打数を分母としたときの(a)単打、(b)二塁打、(c)三塁打、(d)本塁打の発生確率は、平成以降(1989年~)の12球団全体で、(a)単打:18.4%、(b)二塁打:4.4%、(c)三塁打:0.5%、(d)本塁打:2.7%となっており、打数4のうちにサイクル安打を達成できる確率は(a)×(b)×(c)×(d)×24通り=0.002%となる。
打数が5の場合、うち4打数は(a)~(d)の組み合わせとなる必要があるが、残り1打数は凡打でもいずれの種類の安打でも構わないので、打数4の場合に比べ組み合わせ数は多くなる。ただ、それでもサイクル安打の達成確率は0.010%に過ぎない。同様に、打席数6の場合には0.027%、打席数7の場合には0.056%となる(詳細は次表のとおり)。

f:id:carpdaisuki:20200721210552j:plain

打数ごとのサイクル安打達成にかかる組み合わせ・確率

3.サイクル安打の達成確率:試算上は1シーズン中にみられる期待値1.14回

1.のとおり、一の試合において打数4となる選手数が10.98人であり、2.のとおり、打数4の場合のサイクル安打達成確率が0.002%である、という前提のもとにおいて、この10.98人のうち、サイクル安打達成者数の期待値は、両者を掛け合わせた値である「0.00026人」と計算される。同様に、打数5となる選手3.17人についての期待値は0.00033、打数6の選手0.24人についての期待値は0.00007などとなり、これらを合計すると、チーム全体としてのサイクル安打達成者の期待値は0.00067と算出される。

この値を基にすると、12球団が143試合を戦う1シーズン中に、いずれかのチームにおいてサイクル安打が達成される期待値は1.14回と求められる。言い方を換えると、1のチームから平均的に10.5年に一度の頻度で達成者が現れる計算となる。カープでは94年のロサリオ選手以来、達成者が現れることなく25年以上が経過した。そろそろ、次の達成者が現れても不思議でないと思うのだが。西川龍馬選手だろうか、田中広輔選手だろうか、それとも・・・。