野球におけるホームアドバンテージ考・補論(ポストシーズン)

前回の記事で、野球におけるホーム試合での勝率はNPBMLBとも5割4分程度となっていると述べた。これは、リーグ戦を行うレギュラーシーズンの話であって、ポストシーズンについても当てはまるのだろうか。

日本シリーズでのホーム勝率はレギュラーシーズンと殆ど同じ

日本シリーズについてみると、1950~2019年を通じたホーム試合での勝率は.536となっており、実はシーズン中と殆ど変わらない水準となっている。

一方、2007年から実施されているクライマックスシリーズについてみると、ファーストステージにおけるホームチーム(レギュラーシーズンが2位だったチーム)の勝率は.448にとどまり、まだサンプル数が不十分とはいえ、今のところホームの利を活かしきれていないケースが多い印象だ。この原因として、勝ち上がった側のチームの勝率が.761という高い数字になっており、要は2戦先勝という超短期決戦なので(2戦先取制なので、勝ち上がった側の勝率は1.000または.667のいずれかしかあり得ない)、ホームであれロードであれ、先勝して勢いを得た側がそのまま勝ち上がりやすい傾向があると考えられる。

クライマックスシリーズ・ファイナルステージについては、アドバンテージの1勝を含まないベースでみると、ホームチーム(レギュラーシーズンで優勝したチーム)の勝率が.573と、レギュラーシーズンにおけるホーム勝率を上回っている。この原因は後日改めて分析してみたいが、ホームチーム側は初戦からエースを先発登板させられるのに対し、ロード側はファーストステージでエースを登板させたばかりなので、そこから間をおかずに始まるファイナルステージでは、3番手・4番手の投手からのスタートとならざるを得ない、といった制度要因が効いているのではないかと推察される。

MLBポストシーズンでは、レギュラーシーズンよりホーム有利

興味深いことに、MLBポストシーズンについてみると、ワールドシリーズでのホームチームの勝率は.577と、レギュラーシーズンのホーム勝率より高い数字となっている。日本シリーズと比べても、4戦先勝のルールも同じだし、勝ち上がった側の勝率(概ね第6戦、第7戦までもつれる確率、といってもよい)も日米の差はあまり大きくないが、ホーム勝率についてみると、ワールドシリーズの方が4分ほど高い。

地区シリーズについては、NPBクライマックスシリーズ・ファーストステージと同様、超短期決戦であるもと、勝ち上がった側のチームの勝率の高さ(7割6分)から窺えるとおり、ホームアドバンテージというより、最初に勢いを得た側が俄然有利になるのではないかと思われる。

リーグ優勝決定シリーズは1985年以降、ワールドシリーズと同様の4戦先勝制となっており(それ以前は3戦先勝制)、上述したワールドシリーズと地区シリーズの傾向の中間的な姿がみてとれる。すなわち、勝ち上がった側のチームの勝率が7割超となっているが、地区シリーズほどは最初に勢いを得た側がホーム、ロード無関係に一方的有利になっているという感じでもなく、ホーム勝率(5割5分)はレギュラーシーズンをやや上回っている。

MLBの方が総じてポストシーズンにおいて、ホームチームの勝率が高めになっている理由はよく分からない。少なくともいえることは、日米の間で、ポストシーズンの制度設計が異なるため、レギュラーシーズンのように単純に比較しづらいことである。MLBの方がポストシーズンが長いことが何等か影響しているかもしれない。また、球団数が多い中、ホームへの「慣れ」の要素がより大きく働きやすい可能性もあり得そうだ。そもそもホームアドバンテージの要因分解については、学術的にも必ずしも定説があるわけではないようであり、日米のホーム勝率がレギュラーシーズンについては同水準となっている一方、制度設計の異なるポストシーズンについては異なる水準となっている、という事実は、今後の研究・分析における一つの材料になるかもしれない。

 

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ポストシーズンにおけるNPBMLBのホーム勝率等比較