「猫の目」打線と安定のオーダー

プロ野球をみていると、毎日のようにオーダーを違わせる「猫の目」打線のチームがある一方で、かなり固定しているチームもある。これは監督の方針次第という面が強く、一概に成績の優劣と直結しているわけでもないようだが、オーダーを固定できているとき、というのは、そのチームの打線の完成度・成熟度の高い状態にあるとの見方ができるのではないか、と思う。

そこで、本日は、投手の予告先発制度が導入された2012年以降の、カープの先発オーダーの固定度についてみることにしたい。

「やきゅう世代」全盛期の2016・17年は不動の上位打線

カープの打撃陣は、2010年代の前半から、89年生まれ組のいわゆる「やきゅう世代」が成長・台頭し、2016年からの3連覇の原動力になったことは以前の記事でも触れた。次図は、各打順についてシーズン中の全試合に占める先発出場選手の「寡占度(ハーフィンダール指数)」を集計している。例えば、2016年シーズンの四番打者は、アライさんが67試合(全143試合中の46.9%)、ルナ選手が59試合(同41.3%)・・なので、46.9%^2+41.3%^2+・・・と計算していく。これをみると、2012年シーズンにはいずれの打順も日替わり状態だったのに対し、徐々に先発オーダーが固まっていき、2016・17年シーズンの上位打線はほぼ不動となった。1~5番打者の先発オーダーの組み合わせ数も、この2シーズンに限っては20パターンに満たず、かなりオーダーを固定していたことが改めてみてとれる。

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打順ごとの先発出場野手の「寡占度(HHI)」の推移

(注)2020年シーズンについては9月5日(土)まで(以下同じ)。また、投手については区別していない(9番打者の固定度が高いのはそのため)。

不動の四番の完成とタナキクマルの解体

こうした上位打線の固定的状態に、変化が最初に現れたのは2018年シーズンにおける田中選手の不調であった。田中選手は入団以降、ルーキーイヤーの2014年は下位打線で先発出場し始め、2015年シーズンからリードオフマンの座を勝ち取った。ただ、2018年シーズンから打撃不調などが理由で打順を下げての出場が増えている。故障明けで選手会長の重圧もかかる今年は、先発試合はいずれも下位での出場となっている。また、2018年シーズンオフには、ある主力選手のFAによる流出があったわけだが、これについては敢えて触れない。

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田中選手の打順別の先発出場試合数推移

その一方で、菊池選手については、野村監督時代の一軍デビュー年からほぼ一貫して二番打者での出場が多い。長打も打てるしバントのような小技もできるため、二番打者にうってつけということなのだろう。今シーズンこそ、七番打者での出場数がやや増えているが、三代の監督にわたり、調子が万全ならやはり二番を打ってもらいたいと思われている打者なのだろう。

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菊池選手の打順別の先発出場試合数推移

そして、ここ数年、エルドレッド選手やアライさんの引退などのショッキングな出来事もあった中、2017年シーズン以降、我らが千両役者、鈴木誠也選手が「不動の四番」としての地位を完全に確立したといってよい。

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鈴木誠也選手の打順別の先発出場試合数推移

カープ打線の特長の一つ「打てる捕手」

ここで最近のカープ打線の特長の一つである「打てる捕手」についてもみてみよう。現在の正捕手・曾澤選手は高校卒業からの入団3年目から一軍デビューを果たし、ここ数年「捕手は八番打者」という相場(?)を打ち破り、五番・六番などでの出場が多くなっている。

時折、捕手は芽が出てくるのに年数がかかりやすいという言説も耳にするが、曾澤選手は入団3年目のシーズンから10試合以上に先発出場するなど、若手のうちから打撃力の高さが買われていたことが分かる。それにしても一番・外野手での出場(2012年)というのは、今から振り返ると意外感が強いが。

ただ、「打てる若手捕手」として、曾澤選手を上回る成長曲線を辿っている選手がいる。坂倉選手である。次図は、曾澤選手、坂倉選手、中村(奨)選手の一軍入団からの経過年数ごとのOPS(一軍、ファーム)と一軍出場試合数の推移を表している。これをみると、曾澤選手(青色で表示)は驚異的なスピードでの成長曲線を辿っているのだが、坂倉選手(赤色で表示)については、その凄さが霞んでしまうばかりの急成長ぶりである。一軍でOPS9割というのは「既に大打者」といって良い域であり、将来、鈴木選手のメジャー移籍後は「四番・キャッチャー坂倉」もあり得るかもしれない。

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入団からの経過年数別の捕手のOPS・一軍出場試合数

(注)2020年シーズンの一軍出場試合数については、通常年のシーズン(143試合)との比較可能性を確保する観点から、9月5日までの各選手の出場試合数に「143試合÷同日までの催行試合数(65試合)」の値を乗じた数値を表示している。

最後に、今年の朗報である堂林選手の復調ぶりをみるべく、先発出場試合の打順の推移をつけてみた。振り返ってみると、堂林選手は一番打者も中軸も、下位打線もひととおり先発出場歴がある。今シーズンは開幕当初こそ6~7番での出場が多かったが、このところ中軸を任されることが多い。プリンスの復調を嬉しく思うし、この好調を是非、これからも持続して欲しいと願うばかりだ。

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堂林選手の打順別の先発出場試合数推移