「公務員ノムスケ」は実は最新のアメリカン・スタンダードだった?説を唱えてみた件③

前回の記事では、2010年代以降、MLBにおいて先発投手の「100球以内縛り」強化が進み、換言すれば「総ノムスケ化」した結果として、先発投手の投球数についてNPBと異なる傾向をみせつつあることを説明した。
それでは、「総ノムスケ化」したMLBでは、救援投手を含め、どのような投手運用を図っているのだろうか。

救援投手の「1イニング縛り」が徹底しているNPB

いきなり混乱を招きかねない事実を紹介すると、2019年のNPBMLBそれぞれにおける登板投手数の分布を比較すると、MLBの方が分布図が左側に寄っている、つまり実はMLBの方が、登板投手数が総じて少な目に運用されていることがみてとれる。MLBの方が先発投手の投球イニング数がやや短めなのに、試合中に投入される投手数は少ない、というのはどのように解釈すべきなのだろうか。

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NPBMLB(2019年)の登板投手数の分布比較

それに対する一つの回答が、NPBにおける救援投手の「1イニング縛り」である。2019年のNPBMLBそれぞれにおける救援投手の投球イニング数の分布をとると、NPBではジャスト1イニングの登板というケースが64%に上っており、MLB(51%)より1割以上高い。これに対し、MLBでは、「1イニング」に必ずしも拘らず、1イニング未満(1~2ポイント)というケースも多いが、2イニング以上にわたる登板も多くなっている。これは、延長戦のイニング数制限がないことに由来している面も大きかろうが、NPBより「短い先発投手の投球イニング数」と「少ない登板投手数」のパズルを埋める解でもあるはずだ。

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NPBMLB(2019年)の救援投手の投球イニング数の分布比較

NPBにおける先行きの投手運用のあり方への示唆

意外なことに、MLBでは打者との対比における「投手優位」が囁かれ、その補正手段として守備シフトの制限が取り沙汰されている。もっとも、「投手優位」な状況が生まれているのだとしても、それは、今回のシリーズでみてきたとおり、MLBでは打者に慣れられないうちに先発投手をスイッチする運用が強化されるなど、打撃力向上への対抗策を打ってきた結果として作り出されたものなのではなかろうか。

一方、NPBでは、特段「投手優位」論は聞かれず、むしろ一部評論家から「打者優位」論が聞かれていたりもする。NPBが一概にMLBのトレンドを追随すべきだとは思わないが、投手の優位性を高めるためには、「従来型」のセットアッパーに加え、「イニング跨ぎOKな」救援投手、言い換えれば、第二先発的ともいえる救援投手を配備することが考えられるかもしれない。

ノムスケに「脱公務員」を促すのもありかもしれないが、長いキャリアを通じて「公務員」運用の合理性が実証されているもとにおいて、何も「今さら」という感が否めない。また、ノムスケに限らず、投球数の増加、対戦回数の増加に伴い被打率が高まっていく傾向は共通なので、敗戦処理ではなく競っている試合でのロングリリーフが可能な投手がいると心強いに違いない。

この点、今年のドラフトでは多くの先発能力のある投手を獲得したほか、高橋昴也投手も故障から復帰し、山口翔投手も実戦復帰した。アドゥワ投手の復調も期待される中、先発ローテーションの6人を確定した上で、それ以外の投手の中から「第二先発」組を整備できないかと妄想してみる

今年のカープは救援投手不足に悩まされたこともあってか、先発投手の話を始めたつもりが、最後はまたぞろ救援投手陣の整備の必要性に落着してしまった。

今回シリーズのまとめ

NPBにおいては、1980年代から徐々に先発投手の中6日制が導入され、2000年代以降一般化するなど、昔と比べると、(1)先発投手の登板間隔が拡大した。一方、(2)試合当たり投球イニング数は減少傾向が続いており、(1)・(2)の効果が相殺される結果として、(3)先発投手の試合当たり投球数は恐らく大きな増減なし、という傾向が窺える(第①回)。

・2010年代初までは、NPBMLBとも先発投手の投球数は似た傾向を辿ってきたが、2010年代以降、MLBでは(NPB以上に)先発投手の「100球以内縛り」が強化された感があり、その結果として足許では、NPBの方が投球数多めとなっている。このようにNPBの方が先発投手の「投球数多め」となっている最大の理由は、NPBの方が先発投手の好調時に長いイニングを任せる傾向が強いことがある。裏を返せば、MLBの方が、先発投手が好調であっても、投球数が増えるにつれやがて打たれ出すリスクを強く意識している可能性がある(第②回)。

・このように近年、MLBが先発投手の投球数をより制限的に運用するようになった結果、NPBでは好投手の割に「投球数少な目」の野村投手の投球数分布とMLB全体の投球数分布が似通ったものになっている。ただ、MLBでこうした「ノムスケ化」が進行しても投手繰りを維持できている背景には、複数イニングを任せられる救援投手陣の整備がある。このことは、今後のカープにおける投手陣整備や配置を考える上でも大いに参考になるのではなかろうか。