インスタを見ただけなのに・・(AAA本塁打王ケビン・クロンがカープに来るのか?)

一部のネット上でカープが2019年AAAの本塁打王・ケビン・クロン選手(一塁手、26歳)を獲得するのではないか」説が流れている。ついこの風説に触発されてしまい、ただ、いずれにせよ今後、来季に向けた新外国人獲得が取り沙汰されていく可能性があるだろうし、などと思い、つれづれなるままにマイナーリーグの投打バランスについて少し整理してみた。

まず、ケビン・クロン選手なのだが、アリゾナダイヤモンドバックス傘下のリノ・エーシズというチームに所属している。米マイナーリーグ(のうち最上層に位置する)AAAはInternational League(IL)とPacific Coast League(PCL)の2リーグ制になっているのだが、クロン選手の属するリノ・エーシズはPCLのチームだ。このPCLというのがなかなか「癖の強い」リーグであり、乾燥地帯や高地を本拠地とする球団が多いからか、際立って打高投低といわれている。そのため、捕らぬ狸の何とやらではないが、ネット上でも、「AAAの本塁打王」タイトルがNPBでの活躍を占う上でどの程度アテになるのか、という論戦が早速繰り広げられているようだ。

なお、カープのクロン選手獲得説の根拠とやらは、これまで一度もチームメイトになったことがないスコット投手とインスタグラムで相互にフォローし始めている、というシュール過ぎるまでに薄いものである。

ただ、多少真面目にいうと、カープのチーム事情として、①鈴木誠也選手のメジャー挑戦を控え、数年単位で活躍してくれそうな右の強打者が欲しい、②そろそろ若い一塁手の補強を図りたい、③ピレラ選手の成績は「まあまあ満足」な水準だが、結果的に守備位置がチームの弱点と一致しなくなっている、④ドラフトでの獲得が著しく投手に偏ったため、野手の新戦力が欲しい、という中、カープが欲しがっていると言われると、なるほどもっともらしく聞こえる。あと、カープ獲得説が出始める前から、どこかNPB球団に移籍する可能性自体は米メディアで報道されていたようである

ILとPCLのチーム成績の比較

さて、ここからが本題なのだが、ILとPCLのチーム成績を比較すると、やはりPCLの方が総じて「打高投低」となっており、特に本塁打をみると両リーグの違いが顕著にみてとれる。ただ、2019年シーズンについてみると、両リーグとも本塁打数が大幅に増加し、その他の打撃指標も上昇している。これが打者のレベル向上を意味するのか、投手のレベル低下を意味するのかは不明であるが、特に2019年のPCLにおいては、過去との比較においてもILとの比較においても、本塁打の希少性が低いことは確かだろう。

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米AAAのPCL・ILの打撃成績の比較

ILとPCLの個人打撃成績の分布の比較

次に、ILとPCLの個人打撃成績の分布について比較する。まず、本塁打率である。AAAの選手はメジャー昇格などの理由もあって打席数にバラツキが大きいため、本塁打数そのものではなく、打席数に占める本塁打数の比率を拾ってみた。因みに2019年クロン選手の本塁打率は.120である。

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ILとPCLにおける各打者の本塁打率の分布

また、打率、OPS、wOBAについても分布をとってみた。いずれについてもグラフ上、PCLの方が右側に厚みが寄っており、総じて成績の良い打者の割合が高い、つまり打者優位であることがみてとれる。

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ILとPCLにおける各打者の打率の分布

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ILとPCLにおける各打者のOPSの分布

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ILとPCLにおける各打者のwOBAの分布

このように年度間やリーグ間で差が大きいだけに、正直、「PCLで獲得した本塁打王タイトルをどの程度高く評価すべきなのか」という問への回答は難しい。セイバーメトリクスでは、年度間ないしリーグ間のレベル感の差を補正する様々な手法が考案されているが、いずれも決め手はあるわけではなさそうで、とりあえず各年・各リーグ内での成績水準の相対的な位置を把握する観点から、これらの指標を偏差値化してみると、次表のとおりとなる。

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クロン選手の2019年PCLでの打撃成績水準を「偏差値化」すると・・

これをみると、いくらPCLが打者優位とはいえ、2019年クロン選手の成績水準が傑出しており、たとえILでもこれだけの「傑出度」の選手はかなりの好成績であるに違いない(このことが、クロン選手がILやNPBに移籍した場合に同水準の成績を残せることを保証するものではないが)。

AAA本塁打王はメジャーやNPBで活躍できるのか

それでは、AAAで本塁打王を獲得した選手たちは、メジャーではどのような成績を残しているのだろうか。2010年以降のAAA本塁打王のメジャーでの通算成績を整理すると次表のとおりとなる。AAAでの大活躍がキャリアハイだったという選手がいる一方で、オールスターに出場するまでに飛躍した選手もいる。

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AAA本塁打王のメジャー通算成績

 

なお、上表の備考欄にも記載したとおり、カイル・ジャンセン選手は2016年にAAAで本塁打王となった翌年、ソフトバンクでプレーした。ただ、ソフトバンクでは殆ど一軍での出場機会を得られずじまいだったようだ。元AAAの本塁王のNPB助っ人といえば、かつては南海ホークスの「王天井」選手が知られる。「王天井」ことフランク・オーテンジオ選手は1977年にAAAで本塁打王打点王の二冠を獲得し、その翌年来日した。南海球団の「王貞治さんの上を行って欲しい」との意向から「王天井」という登録名でNPB通算(79~80年)30本塁打、打率.250の成績だった。

いずれにせよ、AAAとNPBで成績にはあまり有意な相関関係が認められないため、身も蓋もなくて申し訳ないが、要は一概に言えないというのが結論になる。

その上で、オチのように語るのもなんであるが、クロン選手は2019年にMLBに昇格しており、MLBでの成績は次表のとおりとなっている。これをみると、なんと、(出場試合数・打席数が大きく異なっているが)打率2割1分台、5割超の長打率・8割内外のOPS、そして高い三振率・・、ランス選手そのものではないか!

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2019年クロン選手(MLB)と1987年ランス選手の打撃成績

いずれにせよ、カープ球団のフロント陣には、クロン選手かどうかは分からないが、新外国人選手の獲得を含め、実りあるストーブリーグに努めて頂きたいものだ。

追伸:こちらも観測に過ぎないが、こんなリトアニア出身の投手を獲得しようとしているのかもしれない説もあるようだ。確かに速球主体のセットアッパーであり、チームのウィークポイントなのは確かなのだが、さてはて。