各チーム戦力とドラフト順位について(前編:チーム戦力のドラフト順位等別分析)

来年のカープに期待を高めていくとき、戦力強化ポイントはと問われると、既存戦力の底上げに期待するほかは、新外国人の獲得とドラフトで獲得した新人選手ということになってしまう。そのように考えたとき、そもそもドラフトで獲得した選手は、ドラフト順位毎にどの程度の活躍度が期待できるものなのか、調べてみたくなった。

そんなわけで、NPBの各選手の打撃・投球による勝利貢献度について、平成入り以降の長期時系列でデータを整理してみた。今回から2回シリーズで、その結果を紹介したい。

前置きとして、勝利貢献度を測定するデータの前提

まず、今回の分析における試算方法について説明するが、どうしてもテクニカルな話になってしまうため、このセクションは読み飛ばして頂いても結構である。本来、勝利貢献度を示す指標としてはWAR(Wins Above Replacement)に着目するのが最適なのだが、データ業者を含め長期時系列のWARが(少なくとも無償では)提供されていないため、今回、①打者については打席当たりの勝利貢献度を示す指標(wRAA)をベースに打撃力指標を用い、②投手については、打線の援護や守備力に左右されない投手のパフォーマンス指標(FIP)を用い、簡便な方式でWARに近い係数を算出し、それに準拠することとする。この方法だと、野手の成績指標に守備や走塁による貢献度が算入されていないため、守備や走塁の名手に対する評価が低めに出てしまう難があるのだが、ここでは特に打撃力に焦点を当てて分析していくことにしたい。

(注)具体的には、打者については、{(wOBA-リーグwOBA)÷1.2×打席数+打席数補正(FanGraphsのWAR算出式に準じ、シーズン162試合につき600打席÷20)}÷Runs Per Win、投手につき、{(1.4×リーグ平均失点率-FIP)×投球回÷9}÷Runs Per Win

それにより算出された数値(以下「簡易WAR」)をみると、「簡易WAR1以上」の選手数は、野手・投手とも1チーム・1シーズン平均9人程度ずつとなり、概ねレギュラークラス(投手でいえばローテーション投手ないし勝ちパターンの救援投手)といえるだろう。簡易WARのバーを引き上げ「簡易WAR5以上」の選手数となると、野手につき同2人程度、投手につき同1人程度となり、ここまで絞り込まれるとチームの看板選手であり、概ねオールスター出場クラスというイメージとなる。

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簡易WARの水準毎の選手数(各チーム・各シーズンあたり)

2020年カープの戦力は、ドラフト2位以下の貢献度が高く、外国人選手の貢献度が他球団対比で低かった(因みに、分析するまでもなくFAによる戦力補充はゼロ・・orz)

本記事では、以下、上記の前提で計算した各選手の簡易WARをチーム毎に足し上げた数値を、そのチームの戦力だと想定する。2020年シーズンにおける各チームの戦力構成を、ドラフト順位や獲得経緯(FA、トレード等)別に集計すると次図のとおりとなる。

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2020年シーズンの各チームの戦力構成

上図に対しては様々な見方があるだろうが、まず、入れ替わり頻度が激しく、当たり外れの大きい外国人選手については、3割近くの寄与度を占めるチームがある一方、1割に満たないチームもあるなど、バラツキが大きい。また、楽天や読売、次いで阪神では、積極的にFAでの戦力補充を図り、1~2割相当の戦力をFAで賄っているのに対し、FAに依存しない戦力構成のチームもあり、チーム毎の編成方針の違いが窺える。

2020年カープの戦力構成を12球団平均と比較すると、ドラフト2位以下の活躍度が高く、スカウト陣の面目躍如といったところなのだが、2020年に限っては残念ながら外国人選手の寄与度が低かったことが改めてみてとれる。ドラフト1位については、2020年シーズンに活躍してくれたドラ1選手はほぼ全員投手で、小園選手や中村(奨)選手の躍進や、安部選手や野間選手の一層の奮起に期待したいところだ。また、分析するまでもなく知れた話だが、FAによる戦力補充はゼロであり、この2点が他球団に対するビハインドとなっているように思えてならない。2021年シーズンこそカープの外国人選手が「アタリ」年であって欲しいと願うとともに、球団経営に対しては、FAへの参戦を厭わない姿勢を持ってもらいたいと切望する。

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カープの戦力構成の12球団平均との比較

セ・パ両リーグの戦力構成の比較

打者編:セの方がドラフト1位・FAのウェイトが高く、パはドラフト2位以下の貢献度が高い

さて、この集計値を平成以降の時系列でみたとき、セ・リーグパ・リーグとの間に多少の傾向の違いが観察される。まず、野手(打撃)に関してみると、セ・リーグの方がドラフト1位選手のチーム打撃戦力に占めるウェイトがほぼ一貫して高めとなっている。

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ドラフト1位選手のチーム打撃戦力に占めるウェイト(打者)

その理由は、次の2つのグラフをよく見比べて頂くとお分かり頂けるとおり、セ・リーグの方が相対的に野手1位指名の比率が(やや)高いことがあげられる。全体としてみたとき、ドラフト1位指名はセ・パとも総じて投手(特に大学・社会人の即戦力投手)の割合が高いのだが、セ・リーグではメジャーに行った元横浜の筒香選手やヤクルトの山田選手、村上選手のようにドラフト1位のスラッガーが順調に活躍しているケースが目立つ。これに対し、平成以降でみると、パ・リーグの方がメジャーに行った田中投手やダルビッシュ投手を含め、投手を1位指名する確率が高くなっている。

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ドラフト指名の傾向(セ・リーグ、1989年以降)

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ドラフト指名の傾向(パ・リーグ、1989年以降)

このように、セ・リーグの方がドラフト1位で打者を多く指名し、高い活躍度を発揮していることの裏腹として、パ・リーグでは2位以下指名の野手のチーム打撃戦力に占める割合が高くなっている。リーグ総体としての攻撃力の水準がセ・パで同程度(ないしパ・リーグの方が高い)のだとすると、このことは、パ・リーグの方が2位以下指名で良い打者を獲得し、育成することに成功できていることを意味する

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ドラフト2位以下選手のチーム打撃戦力に占めるウェイト

この間、FAで獲得した選手がチーム打撃戦力に占めるウェイトは、制度導入以降ほぼ一貫して、一部球団の積極参戦に押し上げられる形で、セ・リーグの方が高くなっている。なお、次図では、同一リーグ内でのFA獲得選手についてもカウントしているため、例えば2020年シーズンのパ・リーグにおけるFA獲得選手のウェイトの高まりは、楽天の西武からの浅村選手獲得による影響が大きい。

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FAで獲得した選手のチーム打撃戦力に占めるウェイト

投手編:ドラフト2位以下の貢献度は投手についてもパが上回る。セはパより外国人への依存度が高め

次に投手についてみると、1位指名の投手のチーム戦力に占めるウェイトは、セ・パでほぼ同水準となっている一方、ドラフト2位以下の占めるウェイトは、投手についてもパ・リーグの方が高めとなっている。こうした現象は、ひとつには野茂英雄さん以来、パ・リーグの方がドラフト1位投手のメジャー進出が多いことが影響しているのだが、そうした影響を取り除いてみても、パ・リーグの方がドラフト2位以下の戦力寄与が大きいと考えられる。次図に示した薄い色の破線は、メジャーリーグに移籍した投手について、現実にはメジャーリーグで活動していた期間を通じ、もしNPBで活躍し続けたと仮定したケース(NPBでは移籍前年の簡易WAR水準を維持したと仮定)の戦力寄与度を示す。この薄い色の破線をみると、確かに、もしメジャー移籍がなかりせば、ドラフト1位投手の活躍が続く結果として、特にパ・リーグにおいてドラフト2位以下投手の占めるウェイトが現実の数字と比べ低めになる。ただ、この仮定を置いた場合であっても、ドラフト2位以下投手の占めるウェイトは、多くのシーズンにおいてパ・リーグの方がなお上回っていることがみてとれる。

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ドラフト1位投手のチーム投手戦力に占めるウェイト

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ドラフト2位以下投手のチーム投手戦力に占めるウェイト

それから、セ・パを比較したときにもう一つ観察された特徴として、多くのシーズンにおいて、セ・リーグの方が外国人投手のチーム投手戦力に占めるウェイトが高めとなっている点だ。

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外国人投手のチーム投手戦力に占めるウェイト

以上、取り留めもなく長い文章となってしまったが、要するにこれらのデータをみると、投打ともパ・リーグの方がドラフト2位以下の選手の活躍度が高いことが確認でき、その辺にパ・リーグの強さの一因が垣間見える気がする。

次回は、少し目線を変えて、1990年代以降の入団選手(ドラフト1~6位)がどの程度の割合で、プロ入り後、期待どおりの活躍をしてくれるものなのか、分析することにしたい。