聖地・マツダスタジアムの個性を考える②

前回の記事では、各球場のフェンスまでの距離・フェンス高に着目して、球場の「個性」をみてきた。本日も「球場の個性」の話の続きをしたい。

NPBの方が2割5分程度広いファウルゾーン

実は、NPBMLBの球場の大きな違いとして、ファウルゾーンの広さがあげられる。ファウルゾーンの広さについて公式な公表計数は入手し難いが、こちらのサイトでは、各球場のファウルゾーンの面積推計値が掲載されている。以下、同サイトに基づくと、MLBでは、アスレチックス本拠地のリングセントラル・コロシアム(約3,600平米)のような一部例外を除き、ファウルゾーンが狭めのところが多い(ファウルゾーンが2,000平米を下回っている本拠地球場も10球場存在)。これに対し、伝統的に日本の野球場は外野に至るまでファウルゾーンが広めにとられているところが多く、千葉マリン(約3,900平米)、札幌ドーム(約3,800平米)、横浜スタジアム(約3,000平米)の3球場においてファウルゾーンが3,000平米以上となっている。ファウルゾーン面積の平均値を比較すると、NPB:約2,790平米なのに対し、MLB:約2,230平米であり、NPBの方が約25%広い

因みに、マツダスタジアムについては、観客にとっての臨場感を高める観点から、一塁・三塁ベースを過ぎたあたりからファウルゾーンを狭める設計がなされており、ファウルゾーン面積は約2,400平米となっている。

MLBでは天然芝が主流に。一方、NPBでは人工芝の方が多数

かつてヒューストン・アストロズの本拠地だったアストロドームは、世界7不思議に次ぐ「世界8番目の不思議」といわれるほどに近未来的で、1966年に世界で初めて人工芝を開発・導入したのもこの球場である。ただ、近年は「ボールパーク」に込められた復古的趣味も手伝ってか天然芝への回帰が進んでいる。現在、MLB30球団の本拠地中、人工芝なのは4球団ダイヤモンドバックス、レンジャーズ、ブルージェイズ、レイズ)のみとなっている。
これに対し、NPBではドーム球場が多いこと等もあってか、天然芝は少数派カープ阪神楽天宮城球場は2016年に人工芝から切り替え)の3球団)で、残り9球団の本拠地はいずれも人工芝である。

MLB(やマイナーリーグを含め)には高地に本拠地を置く球団も

「球場の個性」を語る上で、球場の設計・施設だけでなく、所在地も重要な要素である。MLBでは、特にコロラド・ロッキーズの本拠地・クアーズ・フィールドデンバー)が標高約1,600メートルに所在している点が特徴的である。マイナーリーグ(AAA)をみても特にパシフィック・コースト・リーグ(PCL)――「太平洋岸」というより、ロッキー山脈リーグと揶揄され得るほど内陸の球団が多い――では16球団中5球団において、本拠地球場の標高が1,000メートルを超えている。これに対し、NPBに目を転じると、本拠地球場の標高が最も高いメットライフドームでも標高120メートルほどであり、因みにカープの二軍が使用している由宇練習場は随分山道を登らされるが、それでも標高200メートルほどである。

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NPBMLB・米マイナー(AAA)各球団本拠地の標高

気温についても、MLBの方が本拠地所在地ごとのバラツキが大きい

4~9月平均気温の平均値をみると、実は夏場の気温があまり上がらないサンフランシスコやトロントが15度台なのに対し、タンパベイでは20度台後半である。これに対し、NPBでは、ドーム球場が多いことや、太平洋ベルト地帯と呼ばれる緯度ゾーンに多くの球団が集中していることもあってか、19~23度台に集中している。

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NPBMLB各球団本拠地の平均気温(4~9月平均)

(注)気温は4~9月平均気温の平均値。ただし、ドーム球場については、平均気温18度以下の月を18度、28度以上の月を28度として計算。

一般に、打球の飛距離の伸びを邪魔する空気抵抗は空気密度に比例するといわれており、空気密度は気圧・気温によって異なり得る。ここで、各球団本拠地の標高からあらかたの気圧を割り出し、それと気温データを用いて各地の空気密度がどの程度か計算してみた。これをみると、やはり、MLBの方が球場所在地ごとの空気密度のバラツキが大きいことがみてとれる。そして、やはり米AAAのうちPCLの球団本拠地の空気密度の低さが改めてみてとれる。PCLが打者優位のリーグになるのは、こういう地理的条件をみると自然に頷けてしまう。

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NPBMLB・米AAA各球団本拠地の空気密度試算

なお、湿度についてみると、一般に「高温多湿な東アジア」というイメージが持たれがちで、確かにアリゾナ(4~9月の平均湿度30%)のような大都市はなかなか日本にはないわけだが、米国でもロサンゼルスやヒューストンでは、4~9月の平均湿度が75%を超えている。また、次図のドットは球場の所在する都市の湿度を示しているが、同じ都市内でも、例えば海岸沿いだと湿度が高くなり易いといわれており、海岸(五大湖岸を含む)から1マイル(約1.4キロ)以内に所在する球場は、MLBで9球団、NPBで3球団存在している。

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NPBMLB各球団本拠地における湿度・本拠地球場と海岸との距離

ただ、正直、湿度の高さと打球の飛距離との関係は一概に占うことが難しい。物理法則どおりにいえば、湿度が高い方が空気の分子密度が低下するため、空気抵抗が下がるはずなのだが、一方、湿度が高いとボールが水分を吸収し重たくなるため、飛距離がでにくくなる面もある。また、海岸近くの球場は湿度要因だけでなく浜風が風向き次第で投打のいずれかを有利に作用する可能性がある。

前回(第1回)・今回と球場の「個性」について整理してきたが、それでは、こうした球場の「個性」は打撃成績にどのような影響を及ぼしているのだろうか。話の続きは次回とさせて頂きたい。