野球観戦のTIPSとして・・好不調の統計分析(第一幕:打者の好不調)

今日のロッテとの練習試合での惨敗に気を弱くしたつもりはなく、シーズン前からネガティブに聞こえるかもしれないが、打者の好調不調やチームの連勝連敗の波が気になることがある。今回は、実際の成績データと、想定される打率・勝率に応じ、ランダムに打撃結果・勝敗結果を発生させた場合の試算値とを比較しながら、統計分析を行いたい。

本日は、第一幕:打者の好不調についてみてみよう。

好不調の振れ幅は、打率の高さのあまり関係なくシーズン平均打率±1分~1分1厘程度というケースが多い

好不調の波について、平成以降に規定打席数に到達したカープの選手の打撃結果のデータを使ってみていこう。1試合毎の打撃結果にはどうしても振れ幅が大きく、その日の相手投手の出来不出来に左右される面も大きいため、好不調の波を分析していく上では、直近5試合の打率(5試合後方移動平均)を中心にみていくことにする。

まず、好不調の波の大きさは、多くの打者について、好不調時の振れ幅はシーズン平均打率±1分~1分1厘程度であり、故障要因を除くと、選手ごとの好不調の波の大きさのバラツキはあまり大きくない。好不調の波の大きさを数値化するため、ほぼ統計学にいう「標準偏差」を計算する要領で、各選手のシーズン打率と、試合毎の「直近5試合の打率」との較差を二乗し、その総和を出場試合数で除した値の平方根を求めてみた。というと多少ややこしいかもしれないが、要するに、この数値は、選手ごと・シーズンごとの「直近5試合の平均打率」とシーズン打率との較差を意味する。この計数を集計したのが次図であり、1分~1分1厘を中心値として比較的狭い範囲内に集中的に分布していることが分かる。

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打者ごとの直近5試合打率とシーズン打率との較差分布

このように較差分布がある程度中心値に収斂していることからも推察できるとおり、シーズン中の試合単位にブレイクダウンしても「好不調の波の高さ・低さ」は、必ずしも打率水準の高さに依存しない。ここで、分析対象の打者を「シーズンの打率3割以上」「2割5分以上(3割未満)」「2割5分未満」の3グループに分類し、シーズンを通じ、「直近5試合の打率が、シーズン打率をX分X厘上回った(下回った)試合数の分布」をとると次のとおりとなる。シーズン平均打率をその年における「本来の成績」だとすると、本来の成績対比でみた好不調時の打率の振れ幅は、本来の成績水準の高さにあまり影響されないことが分かる。

そして、この結果は、所定の打率水準を基に、コイントスのように「安打」「凡退」をランダムに発生させ、コンピュータに約10万試合を戦わせた場合(次図中、破線の折れ線グラフ)と概ね同じとなる。

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直近5試合打率がシーズン打率をX分X厘上回った(下回った)試合数分布

不調の期間は10試合程度の我慢、連続試合無安打はせいぜい3~4試合の堪忍

次に、好不調の波の長さについてみていこう。まず、「シーズンの打率3割以上」「2割5分以上(3割未満)」「2割5分未満」の各グループについて、直近5試合の打率が、シーズン打率を何試合連続で下回ったか――についての分布をとると次図のとおりとなる。これをみると、不調の波は数シーズンに一度程度の頻度で稀に長引くものの、大半のケースでは10試合以内に終息していることが分かる。

こちらについても、コンピュータに約10万試合を戦わせた場合の試算結果(次図中、破線の折れ線グラフ)と概ね軌を一にしている。

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直近5試合打率がシーズン打率を下回った連続試合数の分布

また、連続何試合にわたって無安打となったか、について同様に分布をとると、こちらは打率水準によって異なるが、「3割打者」だとシーズン中に1度以上みられるのは3試合連続までで、4試合続けば稀に長い方、ということになる。

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連続試合無安打の分布

くどいようであるが、こちらについても、コンピュータに約10万試合を戦わせた場合の試算結果(上図中、破線の折れ線グラフ)と整合的であり、要するに打者の好不調は達観すると確率論どおりということのようだ。むろん、長期にわたる好不調があった場合、それらも織り込んだトータルの成績がシーズン打率なのであって、シーズン打率を所与として事後的に好不調を分析するのは、それ自体がフィクションなのだが、好不調の波は、大きくみると確率論どおりとも言えるし、確率論で説明できない程度の絶不調時には試合出場機会自体が奪われるわけで、確率論どおりとなるよう人為で調整されている可能性も考えられる。

こういう話をし始めると、「春ドレッド」「夏長野」のように、好不調の波云々というより、特定のシーズンの成績が際立って良い選手がいるのではないかとお思いの方もおられるかもしれない。ただ、この言説はこれはある程度正しいものの、ある程度は正しくない。というのが、まず、エルドレッド選手の直近5試合打率の推移をみていくと、キャリアハイだった2014年や25年ぶりの優勝を牽引した2016年については、確かに春先の成績が最も良く、夏場に落ち込んだ後、秋口に持ち直すという推移を辿っている。ただ、毎シーズンそうした推移なのかといわれると、必ずしもそういうわけではない

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エルドレッド選手の各シーズンの「直近5試合打率」推移

「夏長野」についても同じことが当てはまる。他球団在籍中の成績が多いため、データが少し粗くなるが、「データで楽しむプロ野球」サイトから月別打率を引っ張ってくると、確かに2011年・2012年といった脂の乗り切ったシーズンは8月が最高成績となっているのだが、毎年そのとおりかといわれると、必ずしもそうではない

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長野選手の月別打率の推移

ギース・尾関さんのコラム「10歳の娘が導き出した衝撃の結論『長野はなぜ夏に絶好調となる?』」は、衝撃の結論といいつつ、実はあまり確たる結論を導いていないのだが、筆者の結論は、ファンの印象に焼き付いているほど絶好調期が夏場に偏っているわけではない、という身も蓋もないものである。ただ、夏場に絶好調になるシーズンは、長野選手にとって良いシーズンということは言えるかもしれない。チョニキ、今年の活躍も期待してまっせ

次回は、第二幕として、チームの連勝連敗についてデータをみることにする。