廃れた作戦は技術力が低下する――送りバント成功率の推移②

前回の記事では、状況次第で得点確率を高め得るほどにバント成功率の高い「バント職人」野手が残っているNPBと異なり、MLBでは、送りバントの企画頻度が低下するにつれ、バント成功率も低下し、送りバントがますます「見合わない」作戦になっていることを説明した。

本日は、バント成功率の低下を、打撃面の作戦全体の中でどのように評価すべきなのか、少し考察を深めたい。

ESPN「プロダクティブ・アウト」と比べたときの送りバントの「採算性」

米国のスポーツ専門チャネルESPNが開発した指標に「プロダクティブ・アウト」というものがあり、無死ないし一死で走者ありの状況での打席で、走者を進塁させられた凡打のことをいう。Baseball-referenceでは、そうした状況での打数を分母、プロダクティブ・アウト数を分子とするプロダクティブ・アウト率を集計・公表している。

ここで、走者ありの状況での打数のうち、安打になるか、あるいはプロダクティブ・アウトになる場合には、ともかく次打者の打撃結果として走者の進塁を果たせたと考えることにし、本稿においてこの比率「打率+プロダクティブ・アウト率」のことを「進塁成功率」と呼ぶことにする。

この進塁成功率と、送りバントを企画する場合の成功率とを比較すると、次図のとおりとなる。

 

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MLBにおける送りバント成功率とプロダクティブ・アウト率等の推移

この図からみてとれることは、次の2点である。

第一に、足許の送りバント成功率は、2000年代頃までの進塁成功率を下回る水準にまで低下しているということだ。そして第二に、ただ、足許はプロダクティブ・アウト率も低下傾向にあるため、送りバント成功率と進塁成功率との較差は縮小していないということだ(当該較差の推移をグラフにすると次図のとおり)。つまり、送りバント成功率の低下にかかわらず、ともかく走者を先の塁に進められるか、という意味での送りバントの「採算性」は悪化していない。

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送りバント成功率と、「打率+プロダクティブ・アウト率」の較差

それでは、プロダクティブ・アウト率の低下の原因は何だろうか。一つは三振率の趨勢的な高まりである。そしてもう一つは、振れ幅の範囲内なのか、それとも足許の変化(フライボール革命?)と捉えるべきなのか現時点では判断できないが、ここ数年、ゴロアウト/フライアウト率が低下し、フライアウトの比率が上昇していることだ。
いずれにせよ、進塁成功率の低下が意味するのは、MLBにおいては、走者を出しても、それを次の打者で進塁させられる確率が低下しているということだ。それでもなお1試合当たり得点数は減っていない(むしろ増加している)わけで、MLBでは、送りバントに限らず、進塁打の積み重ねによる得点機拡大が減少する半面、長打力で一気に得点を奪う機会が増加していることが窺える。

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MLBにおける三振率と、ゴロアウト/フライアウト比率の推移

バントヒットの減少

それからもう一つ、MLBにおける送りバントの現象・送りバント成功率の低下と関係しているかもしれない現象として、バントヒットの減少が挙げられる。たまにわざと短い打球を打つことで相手の守備隊形を攪乱する意義は一概に否定されていないと思われるが、1試合当たりバントヒット数は減少傾向が続いている。

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MLBにおける1試合当たりバントヒット数の推移

因みに、内野安打数については、振れ幅を伴いながら総じてみると特段の増減がみられない。2000年代初に激減した理由についてはさらなる究明が必要だが、いずれにせよ、趨勢的にとらえると、概ね横ばいで推移しているといえそうだ。

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MLBにおける1試合当たり内野安打数の推移

今回シリーズでは、以上、送りバントの成功率について分析してみた。放棄した技術はまもなく廃れる、というなんとも切ない内容になってしまったが、送りバントの技術が廃れたのだとすると、巧妙なバントに対する守備力も廃れている可能性だってあるわけで、もしかすると五輪などの国際試合では、送りバントの有効性が高まっているのかもしれない