「赤星式盗塁」にみる野球の進化の話

野球の歴史の話の続きとして、1950年代以降のNPB全体としての盗塁数・盗塁死数について、ネット上でいうところの「赤星式盗塁」の推移を整理してみた。

赤星式盗塁とは

「赤星式盗塁」とは、元阪神で野球解説者の赤星氏による「盗塁は、成功数だけでなく失敗数にも着目して評価して欲しい。具体的にはいくら盗塁が多くても、それが盗塁死の倍と等しいならば価値はゼロ、下回るならば価値はマイナスである」という趣旨の発言を「なんJ民」が数式化したものであり、具体的には、「盗塁数-盗塁死数×2」という計算式による。

ここで盗塁死の「マイナスの価値」を盗塁成功による「プラスの価値」の2倍として計算している点は、「セイバーメトリクス入門―脱常識で野球を科学する」(蛭川晧平著、岡田友輔氏監修)で「一般的な目安として言えば、盗塁が成功することの得点価値は+0.20で失敗の損失は-0.40です」としていることと極めて親和的である。

赤星式盗塁は長い年数のうちに良化

NPB全体での「赤星式盗塁」数は、1950年代半ば以降、80年代初までは負値となっており、盗塁成功による「プラスの価値」よりも盗塁死による「マイナスの価値」の方が(結果的に)大きく表れていたことがみてとれる。ただ、この間、押しなべてみれば数値の改善(上昇)トレンドが続いてきたことも事実で、90年代後半以降、正値をとることが増え、足許では1チーム1試合あたり+0.1前後(1チーム年間143試合では+14前後)の水準となっている。

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NPB全体としての「赤星式盗塁」数(1試合当たり)の推移

また、シーズンごとの球団別の「赤星式盗塁」数の分布をみると、次図のとおりとなっており、盗塁の企画をどの程度得点機の拡大につなげられていたかについては、昔の方が球団ごとの分散が大きかったことが分かる。時代が足許に近づいていくにつれ、チーム別の「赤星式盗塁」は分散を縮小しつつ、徐々に良化方向に向かっていったことがみてとれる(※次図の赤星式盗塁の計数は、年間トータル(1試合あたりの数値ではない)ベース)。

その背景として考えられるのは、各球団とも、投手の投球モーションの研究などの研究が進むとともに捕手の送球技術が向上する中、成功確率の高い機会を絞って盗塁を企画するようになってきたのではないか。もしそうだとすると、歴年の選手・スタッフの努力の蓄積の結果としての「野球の進化」を感じることができる。

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球団別の「赤星式盗塁」の分布

なお、そのように申し上げたうえで、カープの「赤星式盗塁」の推移は次図のとおりとなっている。これをみると残念ながら、鯉党が想像する「機動力野球」のイメージとは裏腹に、80~90年代を除くと、足許を含め、負値となっているシーズンやNPB全体の平均値を下回っているシーズンが多いようだ。せっかく走力の高い選手が多いのだから、盗塁の成功率を高めることが勝率アップの一策かもしれない。

昨日鮮烈な一軍デビューを果たした羽月選手も走力の高さが売りの一つだ。得点そして勝利に繋がる効果的な走塁を期待したい。

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NPB全体としての「赤星式盗塁」数(1試合当たり)の推移