カープの開幕ダッシュと勝利貢献度

以前の記事でデモ版を紹介した勝利貢献度指数を使って、開幕から4月4日までのカープについてみていきたい。

まず、打者については、菊池選手の好調が目立つ。得点にも勝利にも大きく貢献していることが分かる。また、坂倉選手も、4月3日横浜戦での満塁弾をはじめ、勝利に大きく貢献するバッティングが光る。いわゆる「小松式ドネーション」についても、これと同じ算出結果となる。

次いで、投手について、勝利貢献度をみると早々に2勝目をあげた九里投手が最上位にくる。また、エースの大瀬良投手やクローザーとして危なげない栗林投手も上位に食い込んでいる。

ここで、投手については、以前の記事で紹介した勝利貢献度指数だと、典型的には0対1で完投負けした試合において負け投手の勝利貢献度がゼロとして計上されるのは、いくらなんでもそうした試合での投手の貢献度を低く見積もり過ぎだろう、と思い、もう一つの代替的な指標を考案してみた。実際に各投手が登板したイニング数について、実際の失点数と、もし平均的な投手が登板していた場合における失点数を比較することにより、その投手が平均的な投手と比べ、勝利可能性をどれだけ高めたか(ないし遠ざけたか)指数化してみた。この新指標によると、阪神・西投手との投手戦に投げ勝った森下投手が最上位にくる。この投手に二年目のジンクスは無縁だよね、という思いを新たにしたくなる。

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3月26日~4月4日のカープの勝利貢献度指数

なお、3月28日の中日戦で、16残塁で無得点に終わり、試合に引き分けてしまった。
16残塁というのは、ほとんど球団記録に迫る残塁数であり、特にマツダスタジアムで観戦していたファンにとっては隔靴掻痒感でいっぱいの試合だったに違いない。

ただ、残塁の多い試合を「拙攻」と表現するのは多少どうかと思うことがある。チャンスを作れない打線よりかは作れる打線の方が期待を持てる。チャンスのときに適時打が生まれるかどうかは、結局のところ運の要素があるため、残塁が多く得点できないのは、多分にツキがなかったということではないか。

MLBについてはBaseball-referenceに残塁に関する統計も掲載されている。この統計をみると、当然といえば当然のことなのだが、シーズンを通じたチームの総残塁数は、打者側からみると出塁率の高さと相関係数が0.715であり、打率(同0.525)、長打率(同0.270)、得点数(0.395)などと比べ、関係性が強い。

投手側からみると許した出塁数(WHIP)の高さとの相関係数が0.748と、失点率(同0.478)などと比べ、高い相関が認められる。

このように、残塁の多さは出塁の多さと関係が強く、一方、一見、長打が多いチームは、走者を一掃する一打を期待できるので、残塁数を減らせそうな気もするのだが、残塁数と長打力に関する指標との相関は低いようだ。

つまり、ポジティブに受け止めると、残塁の多さはチャンスを多く作り出せるほどに出塁能力が高いことを意味している。

幸いなことに今シーズンは、これまでのところ、投手陣が安定し、打線も健闘している。一喜一憂することなく、応援していきたい。

 

投手のピークが21歳というのは本当か?③

このシリーズでは、セイバーメトリクスの「投手のピークは21歳」という説への衝撃から、まず第1回で打者の年齢曲線について、第2回で投手の年齢曲線について分析した。それでは、このセイバーメトリクスの説について、どのように考えるべきなのだろうか。

「投手のピークは21歳」説の根拠

セイバーメトリクス入門」で紹介された「投手のピークは21歳説」の積算方法は、セイバーメトリクスの専門家たちが年齢曲線を分析するときの一般的手法のようであり、MLBに関してもFanGraphsにおいて同様の手法による分析がみられる。

この記事の論説に必要な限りにおいて、大まかな前提を解説すると、①複数年にわたって出場歴のある選手について、当年と前年の成績指標の差をとって、②その値の年齢別の中央値(ないし平均値)をもって、加齢に伴う能力の変化幅とみなす、というものである。

この分析手法のメリットは、個別の選手ごとに丹念に加齢に伴うパフォーマンスの変化を追っている点である。

これに対し、筆者が前回記事までで紹介した手法は、球界全体の平均的パフォーマンス水準を年齢別に比較するというものであり、どの世代もスーパースターから並みの選手まで概ね均等に分布しているだろう、という前提の上に成り立っている。ただ、もし世代別の能力水準に著しい偏りがある場合、例えば、たまたまある年のデータを集計したところ、黄金世代の属する20代前半こそキャリアハイと計算されたが、その5年後のデータについて集計したところ、黄金世代がやはり活躍し続けていた場合、20代後半こそキャリアハイとの計算結果となり、ミスリードが生じてしまう。セイバーメトリクスの専門家たちの分析手法は、こうした分析上の弱みを回避できている点に強みがある。

ただ、この分析手法にも弱点があると考える。第一に、選手のキャリア曲線にバラツキが大きく中、なかんずく正規分布となっていない場合、選手のパフォーマンスの前年差について中央値ないし平均値を拾い集めることが、リーグ全体の傾向を適切に反映できていない可能性はないだろうか。そして第二に、この分析手法は、徐々に芽を出し、花が咲き、やがて枯れていく選手についての年齢曲線分析に適しているが、即戦力の投手については初年の成績指標がよいだけに、その後の「前年比」はダウンサイドの方に偏りが生じてしまっていないだろうか。

各選手単位で勝利貢献度指標の前年差を集計するとどうなるか

このシリーズで使ってきた勝利貢献度指標(2010~20年)について、選手単位で前年差をとり、年齢別に集計すると、どのような分布となるだろうか。まず、打者については、30代半ばに至るまで、±ゼロのゾーンと、+3前後のゾーンに2つの「山」ができる。このことは、概ね前年並みの成績を残す選手が多い一方、その年に突如ブレイクした選手が各年齢層で一定数現れている、ということを意味する。そして、2つ目の「山」である+3前後のゾーンは、20代前半についての「山」が高く、1つ目の「山」である±ゼロのゾーンは23~32歳の年齢層について最も「山」が高くなっている。このことは、20代前半にかけて能力を伸長させ、20代後半にかけて成績水準が落ち着いてくる選手が多いことを示唆している。そして、30代以降は、2つ目の+3前後のゾーンの「山」が低くなり、左側(負値)の「裾」が厚くなってくる。徐々に能力を伸長させる選手数が減り、衰えていく選手が増えてくる、ということだ。

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勝利貢献度指数の前年差の年齢別集計値<打者>(NPB

また、投手については、どの年齢層についてもコブが1つの「山」形となっており、20代まではいずれの年代層も「山」の頂点が±ゼロ前後となっている。ただ、18~22歳頃までは左右の裾が対象なのに対し、年齢が高まるにつれ、左側(負値)の裾が徐々に厚くなっている。このことが意味するのは、少なくとも20代のうちまでは、能力指標は概ね前年並みを維持できるのだが、年齢がかさむにつれ徐々に良化するより悪化する確率の方が高まっていく、ということだ。そして30代半ば以降は、「山」の頂点自体が負値となるなど、多くの投手が能力指標を悪化させていく。±ゼロを中心とした分布の裾が20代前半のうちから徐々に左側に偏っていく図をみるにつけ、前年比の数値の中央値ないし平均値をとっていった結果、20代前半のうちから緩やかな低下が始まっている、という評価になるのは頷けるところだ。ただ、20代のうちまでは、押しなべてみると±ゼロを中心とした富士山型の分布図なのであって、選手によって故障や不調に苦しむことはあっても、総じて能力の低下が始まっているという認識は持ちにくいだろう。

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勝利貢献度指数の前年差の年齢別集計値<投手>(NPB

この分析から分かることは、セイバーメトリクスのいう「投手は21歳がピーク説」は、一つの分析として理解できなくないが、実際には選手間の個人差が大きいため、この分析結果が原則である、ないし一般的傾向である、とまでいうのはちょっと厳しいのではないか、ということだ。

ただ、このシリーズの第1回・第2回でも触れたとおり、少なくとも先発投手については20代前半にキャリアハイがくる傾向があること自体は確かである。また、救援投手や野手についても20代後半がピークとなっている(つまり、「投手のピークは21歳」という説は言い過ぎだとしても、ファンの多くが想像しているよりもピーク期が早いという大筋において、セイバーメトリクスの説は否定し難いだろう)。そのように述べたうえで、シニアの選手が野手であれば選球眼、投手であれば制球力などの技量を高め、選手寿命を長期化させていることにこそ、敬意を表するべきことなのだと思う。

投手のピークが21歳というのは本当か?②

前回記事では、打者の年齢曲線についてみた。今回は、投手の年齢曲線について分析したい。

勝利貢献度を年齢別に足し上げていくと先発投手は20代前半・救援投手は20代後半にピーク

前回の打者編と同様に、まずは、以前の記事で紹介した手法に沿って投手の勝利貢献度指数を測り、年齢別に足し上げてみると、次図のとおりとなり、全体としてみると26~27歳でピークを迎える。このピーク年齢の水準は、打者とあまり変わらない。

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投手の年齢別の勝利貢献度指数の集計値分布(NPB

ただし、先発投手と救援投手とでは異なる傾向がみられる。2010年代について先発・救援の別に勝利貢献度指標の分布を整理すると、先発投手のキャリアハイが22~26歳にくるのに対し、救援投手については26~29歳頃がピークになっている。むろん、先発投手と救援投手との配置転換は割と頻繁に行われているので、キャリアハイ年齢の別も、純粋にポジションの違いから生まれる違いとは限らず、配置転換という人為が介在した結果なのだろう。いずれにせよ、先発について貢献度の高い投手は20代前半に多く、救援については20代後半に多いようだ。

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先発・救援投手の年齢別の勝利貢献度指数の集計値分布(NPB・2010~20年)

そのため、先発投手に限って勝利貢献度指数の年齢別分布をみると、投手全体についてみたグラフと比べ「山」が左側に位置する。ただし、2000年代のように28~29歳に「山」がくることもあるなど、30歳前後までは高い勝利貢献度を維持し続けられているといえそうだ。また、打者編で2010年代にかけて30代後半から40代の貢献度が昔より高まっていることを紹介したが、投手についても同様の傾向が認められる。

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先発投手の年齢別の勝利貢献度指数の集計値分布(NPB

年齢別の防御率の平均値をとると、出場機会のある投手は加齢にかかわらず悪化を防げている

次に、こちらも打者編のときと同様、出場機会のある選手について年齢別の平均値をみることにする。まず防御率についてなのだが、年齢による差はあまりみられない。この結果は、今回のシリーズの冒頭で紹介した「投手の防御率は21歳がピーク」というセイバーメトリクスの説明と異なってみえる。

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一軍出場選手の年齢別の平均防御率NPB

加齢とともに奪三振が減少し、被打率が高まる

素朴に考えると、加齢とともにボールの力の衰えていくため、奪三振が減り、被打率が高まっていくように思えるし、このことは実際のデータをみても確認できる。

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一軍出場選手の年齢別の平均奪三振率(NPB

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一軍出場選手の年齢別の平均被打率(NPB

それでもなおシニアの投手たちが良好な防御率を維持できている背景は、低い与四死球にある。与四死球率については、若手投手よりもシニアの方が低水準におさえられている。つまり、シニアの年齢まで出場機会を維持できる投手は、ボールの力の衰えを制球力の高さで補っているという傾向がうかがえる。

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一軍出場選手の年齢別の平均与四死球率(NPB

この間、本塁打率については、年齢による違いがあまり見られない

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一軍出場選手の年齢別の平均被本塁打率(NPB

本日のまとめ

投手の勝利貢献度は、一般に、先発投手について22~26歳、救援投手について26~29歳頃にピークがくる傾向がある。投手は加齢とともに奪三振率が低下し、被打率が高まる傾向があるが、それでも出場機会を維持している投手は与四死球率が若手より優れており、ゆえに若手投手と遜色ない防御率水準となっているからである。つまり、こうしたシニアの好投手たちは、若手のように力でねじ伏せるのではなく、制球力の良さ、投球術の巧みさを活かした投球で勝利に貢献している姿がみてとれる。

それでは最後に、このシリーズ冒頭で述べたセイバーメトリクスの「投手のピークは21歳説」との関係について、どのように考えればよいのだろうか。この点については、次回説明させて頂く。

投手のピークが21歳というのは本当か?①

セイバーメトリクスの入門書(蛭川晧平著・岡田友輔監修「セイバーメトリクス入門」)を一読して最もショッキングだったのは、「投手に関しては21歳がピークでその後は年齢を経てるごとに防御率が悪化していく結果となりました」という記述である。「投手の肩は消耗品であるとよく言われますが、その事実がデータにも表れていると考えることができるのかもしれません」とのことだが、これは本当なのだろうか?

なお、この本において、打者に関しては得点創出能力のピークが26歳とのことであり、投手についても「これが実態として正しいのかどうかについては色々と議論がなされて」おり、「統計処理の仕方を改めればもう少し打者に近い年齢曲線になるはずだという見解」もあるとされている。

野球におけるピーク年齢はサッカーなどと比べて高め

ただ、こうした見方に対しては、一ファンとしてみたとき、素朴な違和感を禁じ得ない。

なぜなら、他の団体競技と比べたとき、どちらかというと野球はシニアの年齢に至り成熟していく印象が強いからだ。ここで、他競技との年齢曲線を比較してみたい。本来は得失点や勝利貢献度などで比較するのがフェアなのだろうが、ルールの違いという壁を乗り越えた比較方法を見いだせなかったため、野球に関しては打席数(打者)・投球回数(投手)、他競技については出場時間数、という試合への「出場量」に関し、年齢別のウェイトを比較してみた。

なお、欧州のサッカーリーグとは、全部数えると欧州域内国の数以上のリーグ数があるのだが、ここでは英・伊・西・独のトップリーグのみを集計している。

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野球・サッカー・バスケットボールの年齢別出場時間数の比較

この結果をみると、少なくとも「出場量」でみる限り、やはり野球は他競技と比べ、10代のうちからトップリーグで出場することが難しい半面、30代後半でも出場機会を維持できている選手が相対的に多いことが分かる。それでは、この事実と、冒頭で述べたセイバーメトリクスの分析との関係について、どのように考えればよいのだろうか。

そこで、今回から3回シリーズで、野球選手の年齢曲線について考察したい。第一回の本日は、打者の年齢曲線についてみることにする。

打者の勝利貢献度指数を年齢別に足し上げていくと、27~29歳がピーク

まず、打者の勝利貢献度について、以前の記事でとり上げた戦力分析と同じ手法で指数化し、年齢別に足し上げてみると、次図のとおりとなる。

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打者の年齢別・勝利貢献度指数の集計値分布(NPB

ここから分かることを3点述べると、まず第一に、チームの勝利への貢献度が最も高いのは27~29歳だということだ。さらに次の図で示す年齢別の打席数と概ね同様の傾向となっており、つまり、多くの選手がこの年齢でキャリアハイに到達し、ゆえに多くの出場機会を得られている(その結果として、勝利貢献度の最も高い年齢ゾーンになっている)ことがうかがえる。

第二点目として、27~29歳あたりでキャリアハイを迎えるという傾向は、1980年代以降あまり変わっていないということだ。より長期時系列でみると、1950年代はキャリアハイが23歳前後で、そこから70年代あたりにかけて徐々に高年齢化し、1980年代以降、概ね現在の水準に落ち着いた、といえそうだ。1950年代のキャリアハイが若年だった理由は、戦争の影があるのだろう。

そして第三に、2010年代(赤色の折れ線グラフ)をみると、過去の年代と比べ、30代後半から40歳代に至るまでのシニア年代の貢献度が高まっていることだ。このことは、昔と比べ、野球選手のキャリア寿命の長期化を図り易くなっていることを意味する。

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年齢別の打席数分布(NPB

年齢別の平均値をとると、打率や得点創出能力はむしろシニアの選手の方が高い?

上記の分析で着目したのは、年齢別に各選手のパフォーマンスと該当する選手数とを掛け合わせた数値であったわけだが、以下、各選手(一人あたりの)のパフォーマンス水準にフォーカスして分析する。

まず、打率および得点創出能力(wOBA)について年齢別の平均水準を整理すると、驚くことにシニアの選手の方が高い数値となっていることに気付かされる。これは意外な事実である。なぜなら、スポーツ医学的に考えると、一般に人間の動体視力は15~20歳頃がピークといわれているため、加齢とともにボールを捉えにくくなるはずだ。その結果として、三振率が高まり、よしんばバットに当てても芯を外し、凡打に終わる確率が高まるはずだ。この「仮説」が正しいとすると、打率や得点創出能力は加齢とともに低下するはずなのだが、そのようになっていないのはなぜだろうか。

まず一つ言えることは、次図で示されているのは、一軍の試合に出場した選手の平均値なので、能力が著しく低下した場合、引退したり、現役を続行していたとしても試合への出場機会がなくなるわけで、そうなると、この「平均値」に算入されなくなるということだ。つまり、次図から導かれることは、誰しも年齢を重ねるとともに得点創出能力が上昇する、などという珍説ではなく、シニアの選手で出場機会を得続けられる選手が、高い打率、あるいは優れた得点創出能力を維持できているという事実だ。

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一軍出場選手の年齢別の平均打率(NPB

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一軍出場選手の年齢別の平均得点創出力(wOBA)(NPB

寄る年波に勝てないのが、動体視力の低下に伴う「ボールを捉える能力」の衰え

シニアの選手が高打率や得点創出能力を維持できている背景を探るため、いくつかの指標についてみていく。まず、本塁打でも三振でもないグラウンド内への打球が安打になる確率(BABIP)である。BABIPは、少なくとも1990年代以降をみる限り、加齢とともに徐々に低下する傾向が認められる。シニアの選手になっていくと、ボールをバットに当てても、十分に捉えきれず凡打に終わる確率が高まっていくという悲しい現実が透けて見える。ここまでは上記の「仮説」が当たっていると思える。

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一軍出場選手の年齢別の平均BABIP(NPB

伝統的にシニアで出場機会の多い選手は、長打力の高い打者が多い

このように芯で捉え安打を創出する能力が低下してもなお出場機会を確保できるシニア選手は、伝統的には長距離打者が多かったようだ。長打力指標(IsoP長打率-打率)についてみると、少なくとも1960年代以降、2000年代までは、シニア選手は長打力指標に優れた選手が多い傾向がみてとれる。伝統的に、シニア選手の得点創出能力は長打力の高さによって動体視力の衰えを補っているとみてよいだろう。ただし、振れ幅をもってみる必要があるものの、2010年代以降に限っては、必ずしもシニアの選手について、特にIsoPが高い傾向は認められない。

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一軍出場選手の年齢別の平均IsoPNPB

シニアで出場機会の多い選手は、加齢に伴う三振率の上昇を制御している

次に、三振率についてみると、年齢による差がほとんどみられない

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一軍出場選手の年齢別の平均三振率(NPB

シニアの選手たちが、なぜ加齢に伴う三振率の制御に成功できているのか、という疑問に対するヒントと思えるのが、年齢別のコンタクト率とスイング率である。あいにくMLBについてしかデータを拾えなかったのだが、MLBのデータをみる限り、確かにコンタクト率は加齢とともに低下しており、ボールを捉える能力が徐々に衰えていっていることがうかがえる。ただ、コンタクト率の低下と軌を一にするようにスイング率も低下している。これらの事実は、加齢に伴い、投球に対するコンタクト能力が低下するもとでも、配球の読みや制球眼などの技量向上により、バットを振るべき球をよく選ぶようになっている姿がみてとれる。

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年齢別のコンタクト率・スイング率(1989~2010年MLB

事実、NPBにおいてもシニア選手は若手に比べ、四球率が高い

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一軍出場選手の年齢別の平均四球率(NPB

本日のまとめ

本日は打者の年齢曲線についてみた。打者の得点創出能力は、一般に27~29歳でピークを迎える傾向がある。ただし、シニアの選手でも30代後半に至るまで出場機会を得続けられているケースは珍しくなく、そうしたシニアの選手たちは、動体視力の低下に伴う「ボールを捉える能力」の減衰を、①長打力の高さや、②選球眼の良さで補い、若手選手たちをしのぐ高打率・得点創出能力を維持している姿がうかがえる。

それでは、投手の年齢曲線についてみると、どのようなことがうかがえるのだろうか。話の続きは次回とさせて頂く。

イニング別得点数と継投との関係について考えてみた件

 MLBにおけるイニング別得点数については、以前の記事でも紹介したとおり、次図のとおりであり(図は2016~2020年の平均値)、最初の山が初回であり、その次に中盤に大きな山がやってくるイメージとなっている。

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MLBにおけるイニング別得点数(2016~2020年)

一方、イニング中に期待できる得点数に関しては、以前の記事で「打順のあり方」について分析した際にモデルを構築しており、モデルの妥当性を検証する意味を含め、モデルに基づく試算値と実際の数値とを比較してみた。例えば、2019年と2020年について、実際の数値と試算値を表示すると、次図のとおりである。

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イニング別得点数の実際の値と試算値との比較(2019・2020年MLB

まず、前提としてこのモデルを使った試算値の求め方について説明させて頂きたい。まず各打者の打撃成績を仮定する。具体的には、Baseball-referenceに基づき、MLBにおける1番打者から9番打者までの打順別打撃成績(全チーム・シーズン平均値)を用いた。そして、各打者は何巡目の打席であるか、打順が巡ってきたときのアウトカウントや走者状況などにかかわらず、常に当該仮定どおりの確率で安打を放ち、四球を選び、あるいは凡退するとの前提を置いた。

モデルでは、テクニカルなことを言い出せば、例えば盗塁や盗塁死、犠打や犠飛などの可能性を排除しているなど、割り切っている点がいくつかあるのだが、最も現実離れしているのが、この「常に仮定どおりの確率で」安打等が発生するとの前提である。

その上で、モデル上の試算値と実際の数値との乖離幅をみてみると、大きく3つの発見があった。

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モデル上の試算値と実際の得点数との較差(1989~2019年)

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モデル上の試算値と実際の得点数との較差(2020年)

まず第一に、全体としてみれば乖離幅は限定的であり、試合全体としてみたとき、モデルはまずまず妥当といえそう、ということだ。

そして第二に、モデル上の試算値は、実際の得失点数と比べ、序盤と終盤がやや高めに、その反面、中盤は低めに計算されていることだ。

この主因は、上述のとおり、このモデルが「常に仮定どおりの確率で」安打等が発生するとの前提に基づいているからだと考えられる。実際、MLBの投手の被打率について、投球数別、打者との対戦回数別にみると、投球数が増えるほど、また試合中の対戦回数が増えるほど高まっている。つまり多くの場合において、先発投手は徐々に疲れてくるし打者の目も慣れてくるため、徐々に打たれやすくなり、ベンチでは4~6回にかけて継投を考えるべきタイミングがやってくる、ということだ。

また、終盤、特に9回について、実際の得失点数が試算値を大きく下回っているのは、各チームとも好投手をクローザーに据え、失点リスクの制御に力を入れているからだろう。

そして第三に、1989~2019年までのデータに基づく試算結果と、2020年にかかる試算結果とでは、後者の方が試算値と実際の値との乖離幅が大きいことだ。むろん、2019年以前も年による振れはあるし、特に2020年はシーズン試合数が少なかった(60試合)点も割り引いて考える必要があるが、2020年においては試算値と比べ、例年以上に序盤の失点数が少なく中盤の失点数が多い点には注目したい。

以前の記事でも説明したとおり、コロナ禍に見舞われ、試合数を大幅削減した2020年シーズンにおける投打のバランスは、総じてみるとやや投手優位に振れた。こうした中、投手の失点数をイニング別にみると、序盤が少なく、けれど中盤にかけてやはり高まっていることは示唆に富んでいる。一つの仮説として、先発投手の疲労蓄積度が抑制されるもとでは、立ち上がりの失点確率が低下するが、だからといって長いイニングにわたり低い失点確率を維持できるわけではなく、継投策の必要性は必ずしも低下しない、ということがいえないだろうか。

これに少しだけ関連して、MLBにおける先発投手の登板間隔と被打率等との関係について整理してみた。これをみると、登板間隔を広げても直ちに先発投手のパフォーマンスが向上するとは限らないことがうかがえる。むろん、登板間隔の長い投手というのは、単にローテーションの谷間を意味する場合も多いため、この数値を額面どおりに受け止めることは難しいが、ただ、中4日と中5日を比べてもパフォーマンスの差はほぼないといってよい。

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MLB先発投手の登板間隔の長さと被打率・出塁率

一方、投球数が増加するにつれ、被打率が高まることは間違いなさそうだ。投球数が100を超えたときにパフォーマンスが良好なのは、良好なときに限り続投させる運用がとられているからだろう。

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MLB先発投手の投球数と被打率・IsoP(長打に関する指数=被打率-被長打率

これらのデータは、MLBにおいてなぜ早めに継投するのか、そしてなぜ中4日制を維持するのか、という疑問に対する一つの答えを導いているように思える。

ここで「一つの答え」という表現をとったのは、投手の登板間隔や投球数については、失点リスクの制御の観点のほか、故障リスクの抑制などの観点があるからだ。正直、筆者はスポーツ医学の門外漢なので、登板間隔や投球数と故障リスクとの関係について論じる能力をもたない。ただ、日米ともトミー・ジョン手術の経験者数が増えていることは事実だ。昔に比べ、一層、投手の投球の質が高度化している中、プロ入り前(アマチュア時代)まで含め、登板過多を回避する努力が必要なことだけは間違いないだろう。
その上で、MLBにおいて中4日制が崩れない極めて直接的な理由は、ロスター(出場選手枠)にあるのではないかとみている。一軍登録枠の範囲内での自由度の高いNPBと異なり、MLBでは投手13人までという制約がある(因みに「二刀流」は投手枠13人に含まれないため、エンゼルスの大谷投手は、チームの投手出場枠の確保という意味でも価値が高い)。現実にはNPBでも投手の一軍登録は13人前後というケースが一般的なのだが、人数制約があるもとで、先発投手に投球数制限を課して継投をできるようにするためには、救援投手陣の駒数が必要となり、簡単に先発投手数を増やしにくいとみられる。むろん、ルールを改正し、ロスターの枠を拡大することも考えられるが、球団経営者にとってはコスト増要因になってしまうし、シーズン中の先発回数の減少となると、先発投手の年俸減につながりかねず、なかなか話が進まないようだ。

前回記事で述べたとおり、今シーズン、NPBでは9回までで試合を打ち切る方針であり、一つの可能性として継投のタイミングが一層早まり、イニング別得点数をみても中盤にかけてやってくる「山」がなだらかになるかもしれない、とみている。投手の分業のあり方と失点リスクの制御との関係は、このブログの主題の一つでもあり、引き続きフォローしていきたい。

9回までで試合を打ち切ると、1割前後の試合が引き分けになる?!

今日もごく手短の記事となるが、2021年のプロ野球は、新型コロナウイルス感染拡大に伴うイベント開催時間への配慮から、延長戦を行わず9回までで引き分けとすることになった。

9回までで試合終了とする場合、1割前後の試合が引き分けに・・?!

こうした運用のもとでは、標題のとおり、1割前後の試合が引き分けになる可能性がある。まず、無制限に延長戦を行っていた2019年までのMLBにおいて、9回の攻防の行われた試合数を1としたとき、9回裏以降、(裏の攻撃回終了時点での得点差を集計したとき)何回裏まで同点が続いたか、について分布をとると、次図のとおりとなる。

延長を無制限に行うMLBでは、延長X回まで同点だった場合とはすなわち、X+1回に決着がついたことを意味するわけだが、今回の記事の文脈に引き付けていうと、MLB(2000~19年)では、もし試合をX回で打ち切りとした場合、どのくらいの割合の試合が引き分けになっていたか、を意味する。

もし9回で試合を打ち切りとした場合、1割強の試合が引き分けになっていたし、10回で打ち切りであったなら6%程度、12回で打ち切りなら2%程度の試合が引き分けとなる計算だ。

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MLB(2000~19年)において9回以降、何回裏まで同点が続いたか

延長を無制限に行う場合と、予め延長回数を制限している場合とでは作戦行動や試合展開に違いが生じ得るが、2016~20年のNPBをみても、概ね似た傾向がみてとれる。やはり9回裏まで同点(延長に突入)の試合数は10%前後あり、10回裏まで同点の試合数は約6%、12回まで同点の試合数は約2%となっている。

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NPB(2016~20年)において9回以降、何回裏まで同点が続いたか

NPBの歴史上、8~10%前後の試合が引き分けになるのは、試合時間「3時間」で区切っていた1970年代半ばと、「加藤球」と東日本大震災後の節電の要請のため、「12回ないし3時間半」で区切られた2011~12年以来となる。なお、1990年代前半のセ・リーグでは延長15回制をとっていたため、引き分け数が極端に減少している。

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NPBにおける引き分け率(引き分け数÷試合数)の推移

勝利数が最多のチームが優勝できない可能性も??

NPB(2リーグ化された1950年以降)の歴史上、勝利数が最多であったにもかかわらず、勝率では引き分け数の多いチームに劣後してしまい、優勝できなかったケースは9例しかない(シーズン中の勝利数最多のチームがプレーオフ敗退により優勝を逃したケースを含まない)。2021年シーズンにおいて、引き分け数が多いリーグ環境において混戦となった場合、もしかすると10例目のレアケースがみられるかもしれない。

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勝利数が最多にもかかわらず勝率で下回り優勝を逃したケース

一般論としては、延長戦を行わないルール下では、投手の戦力層が厚くなくてもひととおりの勝てるラインナップを揃えているチームが有利になりそうだ。さてはてカープはいかに。先発投手陣は悪くないと思うし、課題の救援陣もルーキー陣やケムナ投手、塹江投手などの奮起に期待といったところか。

カープのオープン戦における勝利貢献度を集計してみた件

本日の記事はごく手短に、カープのオープン戦における勝利貢献度を集計してみた。なお、ここでいう勝利貢献度の算出方法(野手投手)については、以前の記事のとおりである。

オープン戦を通じた打者のMVPは田中選手

打者に関しては、総じて低打率に終わってしまった(オープン戦のチーム打率は12球団最低)が、そうした中、オープン戦の朗報の一つは、田中選手が得点や勝利にしっかり貢献してくれたことである。勝利貢献度ランキングについてみると、田中選手が堂々のチームMVPである。

そして、勝利貢献度ではなく得点貢献度に目を転じると、オープン戦MVPは、石原選手である。プロ入り2年目のプロスペクトは、入団当初、守備面(肩の強さ)が売りと言われていたが、打撃力でも着実にレベルアップしていることがうかがえて、心強い。また、同じく捕手の磯村選手もランクインしており、捕手4人体制という異例の体制で開幕を迎えることになるのも納得である。

さらに、ドラフト6位の新人・矢野選手もランクインし、開幕一軍決定のようである。守備力には折り紙付きで、田中選手の後継者争いも激しさを増してきた。

投手については、集計上、1試合の先発機会を勝利に導いた床田投手がMVP

投球内容でなく勝利への貢献度についてみる(しかも負け試合については負の勝利貢献度がカウントされるため、例えば1勝1敗の場合、貢献度が差し引きゼロに近い数値に仕上がってしまう)、という計算方法の都合上、投手のMVPは1試合の先発機会を見事勝利に導いた床田投手となった。この計算方法では、シーズンを通じた評価としてはやがて均されるのだが、短い期間で区切るとどうしても、僅差での敗戦もありつつ勝利を重ねている状況がうまく評価されにくい嫌味があることは事実だ。大瀬良投手や九里投手の活躍度については、この次に紹介するとおり、試合単位での貢献度を参照することが適当だろう。そのうえで、床田投手については、昨年のキャンプからオープン戦にかけては不安を残す内容だったが、今年は春先から本来の調子で仕上げてきているようだ。また、ドラフト上位の栗林投手、森浦投手、大道投手が揃ってランクインしている。新人に過度な期待は禁物とはいうが、これを機にブルペン陣が一気に充実化することに期待したい。

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カープ・2021年オープン戦を通じた貢献度ランキング

試合ごとに勝利貢献度の最も高かった選手をみると、野手では田中選手が3回、西川選手とクロン選手が2回。投手では九里投手が2回。

また、試合単位で、勝利貢献度の最も高かった選手をみると、次図のとおりである。スポーツナビの「エキサイティング・プレーヤー」とネット民投票で決まる「みんなのMVP」とも比べてみた。

試合単位でみると、野手では、田中選手のほか、西川選手やクロン選手の勝利貢献の高さが分かる。西川選手は心配していないが、クロン選手については、練習熱心で日本野球に溶け込もうと努力しているだけに、いつか野球の神様が微笑んでくれることを祈るばかりだ。

また、投手については、試合単位でみると、さすが大瀬良投手と九里投手の活躍ぶりは盤石である。オープン戦最終戦では野村投手もソフトバンク相手に見事な投球であった。

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カープの2021年オープン戦:各試合で最高勝利貢献度の選手

2021年シーズンにおけるカープの躍進を期待しつつ、開幕を待ちわびている。