「ピッチャー鹿取」というけれど・・中継ぎ投手の負担について考える②

前回の記事では、NPBにおける救援投手の起用法とハードさについて述べた。かつては登板イニング数、近年は登板数の多い投手数の増加ぶりが目立つというのが結論であった。それでは近年のカープにおいて、救援投手の登板数はどの程度タフなものになっているのだろうか。

まずはカープの歴代救援投手をみてみよう

まず、端的に、カープの歴代の年40登板以上の投手(1989年~2019年)の一覧をお見せしよう。

これだけ見ると、カープの救援投手は比較的短い年数のうちにキャリアハイとピークアウトを繰り返し、入れ替わりが激しいようにみえる

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カープの歴代・年40登板以上の救援投手(その1)

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カープの歴代・年40登板以上の救援投手(その2)

救援投手の入れ替わりの激しさは、どの球団も似たり寄ったり

それはそうかもしれないが、カープに限った話ではない。40試合以上登板を「何年連続したか」に着目すると、次図の折れ線グラフ(赤色)のとおり、あるシーズンに40登板以上を記録した投手が、それをさらに3年以上続け、中崎投手のように「4年(以上)連続」して40登板以上する確率は、NPB全体でも13%にとどまる

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年40登板以上の連続達成回数別の分布

(注)1980年以降に初めて年40登板を記録した投手について集計。また、ごく最近にデビューした投手を算入することにより、「連続」年40登板以上を達成した投手の割合が低めに算出されないよう、2016年以降のデータはカットしている。次図も同じ。

また、「連続」ではなく、キャリア「通算」でみても似た傾向がみてとれる。今村投手は年40登板以上を既に6回達成しているが、あるシーズンに年40登板以上した投手がそれをさらに5年以上達成し、通算6回を達成する確率は7%に過ぎない

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年40登板以上の通算達成回数別の分布

なお、前回の記事で示した年40登板以上の投手数の推移について、データの対象をカープの投手だけに絞って示すと次図のとおりである。前回の記事と比較参照して頂ければお分かり頂けると思うが、カープも総じてNPB全体と似たような傾向となっている。

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カープの年40登板以上の投手数の推移

チーム力アップとともに訪れた救援投手の負担増

ただ同時に、上図をみると、カープの救援投手陣は、永川投手がいったんピークアウトした2010年代初に登板数年40以上の救援投手数が減少したが、その後、2010年代後半にかけて急増したことも窺える。

この背景には、近年の多登板の救援投手数の増加はNPB共通の傾向であるうえ、カープ固有の事情として、徐々にチーム力が向上していく中、特に勝ちパターンの「起用ニーズ」が高まった事情が想像できる。

つまり、カープが他チームとの比較において特に救援投手に多登板を課しているとは言えないが、チームとして2010年代後半にかけて救援投手の負荷が高まった可能性が考えられる。

こうした救援投手の「起用ニーズ」の高まりに対し、むろん、カープは若手投手の台頭や外国人投手の獲得などによる戦力整備を図ってきたわけだが、どうしても少数の優れた救援投手に、毎年の多登板が期待されるようになったと考えられる。

 次図は、カープの各シーズンの年40登板以上の投手について、「年40登板以上の記録を何年連続で達成したか」別の分布を示したものである。いわば救援投手の「勤続疲労」度を表しているわけだが、2010年代後半にかけて、何年も続けて年40登板以上の投手数が増えた――いわば「勤続疲労」度が高まったことが分かる。

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カープの年40登板以上の救援投手の「勤続疲労」度

くどいようであるが、2010年代後半を含め、カープの救援投手の負担水準が他チームと比べ際立って高いとは言えず、このことは上図の「勤続疲労」度をNPB全球団についてみても分かる。他球団でも救援投手の負荷が高まり、何年も続けて多登板となっている投手数は増えている。

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年40登板以上の投手の「勤続疲労」度(NPB12球団の1球団あたり平均値として表示)

ただ、多少身も蓋もない言い草になるのだが、他チームとの比較を含め、投手の摩耗度については、本ブログの主題であるデータ集計に基づく議論が難しい領域である。上図をみると、全球団に目を向けると、中日の岩瀬投手のように何年にもわたって「酷使」されているようで好成績をあげ続けた選手がいる(グラフ中赤色~紫色で表示)。その一方で、登板数や投球イニング数の多寡にかかわらず調子を落とす選手もいる。このように、投手の摩耗度については、個人差が大きく、「多登板が何年続くか」だけから測定することは不適当である。

とはいえ、①定性的には高水準の負荷を何年も続けると摩耗していくことと、②カープの救援投手陣の負荷が2010年代後半にかけて高まったことは言えるのではないかと思う。

ここまで、救援投手の負担度をみる要素として、①登板数、②投球イニング数、③多登板数となった年数(勤続疲労度)の3つについてみてきた。もう一つ、忘れてはいけない要素がある。そのもう一つの要素と、これまでの議論のまとめについては、次回にしたい。