「ピッチャー鹿取」というけれど・・中継ぎ投手の負担について考える①

今年のカープは3連覇を支えた救援投手陣の何人もが、勤続疲労のせいか調子があがってこない。そのことがチーム力全体の押し下げ要因になってしまっており、本日は、救援投手の登板数・登板回数についてみることにしたい。

近年、登板数の多い救援投手数が増加

救援投手の「酷使」が言われるようになったのは、以前にもこのブログで度々とり上げた投手の分業制確立の帰結である。次図は、1980年以降の、年40登板以上の救援投手の人数(1チームあたり)の推移を表したものである。80年代は、各チームともクローザーを配置しつつ、救援投手数がまだ少なく、シーズン40登板以上の投手は各チーム平均1~2名程度であった。終盤を1イニングずつ繋いでいくような継投システムが出来上がったのは90年代後半以降であり、今では、年40登板以上の投手数は各チーム4~5人程度となっている。

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年40登板以上の投手数の推移

なお、MLBはシーズン総試合数がNPBより20試合近く多いため、NPBとの単純な比較はできないが、MLBでも年40登板以上の投手数が歴史的に増加傾向にある点ではNPBと共通している。年40登板以上の投手数が各チーム平均6人程度となっており、NPBよりも多登板数の投手数は多めとなっている。

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年40登板以上の投手数の推移(MLB

また、阪神・久保田投手の90登板(2007年)や西武・平井投手の81登板(2019年)のように、登板数の多さがマスコミ紙上を賑わせるケースもあるが、登板数の最も多い投手の登板数および、登板イニング数の最も多い救援投手の投球回数を整理すると、次図のとおり、総じてみると日米とも似たり寄ったりである。日米いずれも救援投手は「休みなし」ともいってよいほどに過酷なのである。

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最も登板数・投球回数の多い救援投手(NPBMLBの比較)

「ピッチャー鹿取」のシーズン登板数は60前後だが・・・

ところで、こうやって登板数の記録をみていくと、昔、「ピッチャー鹿取」が流行語になったのは何だったのかと思うかもしれない。「カラスが鳴かない日はあるが、鹿取が投げない日はない」などと揶揄されていたが、85~87年シーズンの鹿取投手の登板数は60前後である。では、当時、酷使されることを指す「カトラレる」という造語まで生まれたわけが、実は鹿取投手はカトラレてなかったのだろうか?

否、本記事ではこれまで登板数にだけ着目してきたが、カトラレていたかどうかは、投球イニング数までみなければ分からない。当時はイニングを跨ぐ登板が珍しくなく、鹿取投手も例外ではなかった。次図は鹿取投手の85~87年シーズンの登板試合ごとの投球回(イニング)数の分布を示している(縦軸は登板試合数を示す)。これをみると、救援の割には4~6イニングにわたりマウンドに立ち続けている試合数が多いことが分かる。つまり、当時の鹿取投手は純粋なクローザーではなく、クローザー業務に加え、先発投手が早々に降板したときの「第二先発」(ロングリリーフ)や、ピンチにおけるワンポイントリリーフまで何でもござれ、のマルチな役割を受け持っていたのだ。

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鹿取投手(85~87年)の登板機会毎の投球回数の分布

本家以上にカトラレていた投手もいたという現実

当時のNPBで年40登板以上の投手数が各チーム1~2名程度だったことは既に述べた。では、鹿取投手は、同時代の各チーム1~2名の多登板数の投手と比べても、際立ってカトラレていたのだろうか。
この点、実はそんなことはなく、例えば「ピッチャー鹿取」が流行語となった87年のカープ・川端投手は救援のみで鹿取投手を上回る130イニングを投げている(登板数は57。因みに、川端投手の他にも、阪神の中西投手や近鉄の石本投手などが、鹿取投手並みかそれ以上の登板数・投球回数を記録している)。この年の川端投手は、鹿取投手以上に「第二先発」的に長いイニング数の登板機会が多い。最近だとひと頃の九里投手やアドゥワ投手の起用法に似た「便利屋」枠というイメージだろうか。こういう起用法をみると、中継ぎ投手でありながら二桁勝利(10勝2敗2セーブで、最高勝率のタイトルを獲得)をあげたと聞いても驚かない。

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カープ・川端投手の登板機会毎の投球回数の分布(87年)

その後、救援投手の人数が増強されるとともに役割分担が細分化されていくにつれ、救援投手の登板機会ごとの投球イニング数は絞られていき、足許では40試合以上に登板するような救援投手については、1イニング限定というケースが一般化している(本記事最初のグラフの折れ線グラフ(赤色)参照)。

本日の結論:昔登板イニング数、今登板数

以上を要約すると、①一部の救援投手がシーズンの3~5割もの試合に登板するなど、過酷ともいうべき状況になっているのは、日米共通の現象である。②NPBの歴史を紐解くとかつて救援投手は、特に「登板イニング数」において過酷だったが、近年は「登板数」の多い投手数の増加に焦点が集まってきている

それでは、近年のカープの救援投手は、どの程度ハードな起用法がとられてきたのだろうか。それが本記事の冒頭で触れた問題意識の核心なのだが、そろそろ長くなってきたので、次回にしたい。