「やられたらやり返す」半沢直樹を観ながら野球について考えたこと

「やられたらやり返す」――穏やかでない言葉であるが、野球において点をとられビハインドの展開になったとき、逆転を目指すのは当然のことである。本日は、「逆転勝ち」についてデータをみてみたい。

3連覇中のカープは正に「逆転のカープ

3連覇中は、スポーツニュースでもよく言われていたとおり、正しく「逆転のカープ」だった。まずは、カープの逆転勝利数の推移をみてみよう。3連覇中は40を超える逆転勝利数で、全勝利数に対する逆転勝利の割合(赤色の折れ線グラフ)も5割前後という高水準だった。

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カープの逆転勝利数の推移(09年~)

(注)2020年シーズンについては、9月19日まで。この記事において以下のグラフについて同じ。

「逆転のカープ」のからくり

それでは、3連覇中、逆転勝ちが多かったのは何故だろう?実は、野球において逆転は日常茶飯事のようなもので、実は、3連覇中であれその前後であれ、試合中に逆転することもされることも珍しくなかった。ただ、3連覇中の逆転勝利数の増加は、「逆転された」回数と比べ「逆転した」回数が増加したことが要因とみられる。

次図は、試合中に逆転し、ないし逆転された回数を集計したものである(逆転のみられた試合数ではなく、逆転のあった総数を示しており、例えばシーソーゲームで、1試合中に逆転し、逆転され、さらに逆転した場合、逆転数を3でカウントしている)。これをみると、3連覇中も逆転された回数(グラフの灰色部分。回数をマイナス方向に表示している)自体は、それ以前と比べ減っていないが、逆転した回数(グラフのピンク色部分)が増加したため、両者の差し引き(赤色の折れ線グラフ<右目盛>)が大幅な正値(=逆転された回数より逆転した回数が上回っている状態)となったことが分かる。

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カープの試合中に「逆転した回数(a)」と「逆転された回数(マイナス表示)(b)」の推移

それでは、試合中に逆転した回数が増加した理由は何だろう。その答えは、カープのイニング別の得点数の推移をみれば分かる。次図は、カープ・各シーズンのイニング別平均得点数を示しており、これをみると、3連覇中はいずれのイニングでも高い得点力を誇っていたが、とりわけ5~7回にかけての得点数の多さが目立つ。

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カープ・各シーズンのイニング別平均得点数

その帰結として、カープが試合中で逆転を果たしたイニングについても、とりわけ、5~7回というケース多い。次図は、カープが試合中でどのイニングで逆転を果たしたか、逆転を果たしたイニング別に集計したものである。これをみると、確かに3連覇中には、5~7回に限らずいずれのイニングでも逆転機があったし、優勝年以外であっても、5~7回での逆転数が多い傾向が認められるが、なかんずく3連覇中は中盤から終盤にかけての逆転が多かったことが窺える。

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カープのイニング別得点の推移(09~20年)

むろん、試合中に逆転を果たしても、残りのイニングがある以上、勝利を確信するには尚早である。この点、3連覇中は打線が逆転してくれた試合を、きっちり勝利にできた確率が相当に高いことが分かる。次図は、①試合中に逆転した試合数(棒グラフのピンク色+黒色)と、②そのうち最終的に勝利した(逆転勝利を達成した)試合数(棒グラフのピンク色)の推移を示しており、つまり、棒グラフの黒色部分が、せっかく一度は逆転したが追いつかれるか再逆転を許すかして勝利を逃した試合数を示している。3連覇中については、黒色部分の帯が短いことがみてとれるはずだ。

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打線が逆転した試合数と、最終的に逆転勝ちした試合数

試合の中盤から終盤にかけて逆転を果たし、そのまま勝利に至った確率の高さは、打線の得点力の高さに加え、救援投手の質の高さによってもたらされたと言える。次図は、救援投手のパフォーマンス指標・FIPについて、「カープ救援投手のFIPカープ以外のセ5球団の救援投手のFIP」のスプレッドの推移を示す。これをみると、(3連覇最終年の2018年はともかく)2016~17年については、カープの救援投手陣が他球団に比べ高いパフォーマンスを示していたことが分かる。

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カープ救援陣のFIP」-「カープ以外のセ5球団の救援投手のFIP」のスプレッド推移

さらに言えば、ホームでの勝率の高さが3連覇中の「逆転のカープ」の要因

これまでみてきた観点のほか、実は、3連覇中のカープマツダスタジアムでの勝率の高さも「逆転のカープ」を支える要因となっていたと考えられる。以前の記事で、野球におけるホームアドバンテージは、平均的にみれば+4%ほどであると述べたが、3連覇中のカープは地元で実に7割前後の高い勝率をあげている。

やや計算技術的な説明になってしまうが、後攻で得点をとる方が、先攻で同じ得点をとった場合と比べ「逆転」となる確率が高い(例えば4回までの攻防がともにゼロ点で、5回の攻防で相手チームが1点、カープが2点をとった場合、カープが先攻の試合ならば2点を先制した後に1点追い上げられたがリードを保っている状態となるが、カープが後攻ならば先制を許しつつも直後の「逆転」となる)。

次図は、カープの逆転勝利した試合をホーム・ビジター別に仕分けしたものである。これをみると、実際、3連覇中の逆転試合数の高まりは、地元・広島であげた逆転勝利数の増加が大きく寄与していたことがみてとれる。

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カープが逆転勝利した試合のホーム・ビジター別内訳

MLBでも中盤から終盤にかけての得点力の高いチームは逆転勝利が多い

以上、カープについての「やられたらやり返す」をみてきたわけだが、MLBでの傾向はどうだろうか。実は、逆転勝利数の多さと「得点力」や「失点防御力」の高さとの相関関係を一概にみることは困難なのだが、MLBでも中盤から終盤にかけての得点数の多いチームは、総じて逆転勝利数が多い傾向のあることが窺える。

以前の記事で、MLBにおいては全体として初回(1回)の得点数が最も多いと述べたが、チーム毎・シーズン毎にみるとばらつきがあり、2009~2020年についてみると初回の得点数が最も多かったチーム・シーズン数は21.9%であった。他方、3連覇中のカープのように中盤から終盤にかけてのイニングの得点数が最も多いチーム・シーズンも少なくない(5回:15.8%、6回:15.6%、7回:5.8%)。

ここで、MLB(2009~19年)の各チーム・シーズンの逆転勝利数について、得点数の最も多いイニング別に集計すると次図のとおりとなる。これをみると、最多得点イニングが1回であるチームについては、シーズン中の逆転勝利数が「30~35回」というのが最頻値となっているのに対し、得点最多イニングが試合終盤(5回以降)であるチームについては、シーズン逆転勝利数が「40~45回」が最頻値となっている。

試合の序盤でガツンと攻勢をかけるのもよいが、投手をじっくり攻略し、打順が2巡目、3巡目となり打線が相手投手に慣れてくるとともに、相手投手に疲労の色がみえてきたところで畳みかける、という攻め方は、逆転勝利の美酒を多く味わえるかもしれない、ということだ。

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MLB・得点数最多のイニング別の逆転勝利数の分布

カープは、連覇が途切れた後も打線が逆転する機会自体は相応に多く、最後まで諦めない姿勢には、いつも勇気と感動をもらっている。試合単位でも「やられたらやり返す」姿勢を維持してもらいたいし、ペナントレースも優勝を逃した悔しさを晴らすべく、「やられたらやり返す」とばかり奮起を期待したい。