「ルーズヴェルト・ゲーム」考②

前回の記事では、ルーズヴェルト・ゲームがMLBにおいて20世紀以降の全試合数のうちたった1.1%しかないことや、ルーズヴェルト大統領が「8対7」が最も面白いと言った当時、MLBが投手優位から一転、ベーブ・ルースなどのスターに牽引され打者優位のトレンドになっていたことを述べた。本記事からは、いよいよ本題である「一番面白いゲームスコアは8対7だ」という命題に対する是非の考察に入る。

今回は、「8対7の試合は本当に逆転につぐ逆転がみられるのか」についてみてみよう。野球に限らず多くのスポーツにとって、逆転の可能性を期待できることは、「ゲームとしての面白さ」を確保する上で重要な要素である。今回は、まず実際に逆転が生じた回数に着目したい。さらに、「逆転が生じた試合について、さらに試合中に何度の逆転があったか(逆転回数)」についても、逆転回数が多ければ一概に面白いというものでもなかろうが、逆転可能性の高さを占う指標として有効だと思われるため、分析対象とする。

MLBにおける21世紀入り後の「ルーズヴェルト・ゲーム」をみると・・

まずは、MLBにおける21世紀入り後(~2020年9月19日まで)の「ルーズヴェルト・ゲーム」についてみてみよう。この対象期間中のルーズヴェルト・ゲーム(517試合)のうち、8割近い試合(403試合。次グラフの逆転回数<X軸>「1」以上)で逆転がみられ、試合中の逆転回数が2回、3回、という試合数もそれぞれ33.7%、24.4%の確率でみられた。ただ、試合中の逆転回数は最大7回まであり得るわけだが、逆転回数「4回以上」は6.6%にとどまる。

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MLBにおけるルーズヴェルトゲーム(21世紀以降)における試合中の逆転回数別分布

逆転が生じる試合数については、「2対1」のロースコアの試合であっても、「勝利チームが2点先制→敗北チームが1点追い上げ」「勝利チームが1点先制→敗北チームが追い付く→勝利チームが1点獲得」「敗北チームが1点先制→勝利チームが逆転」の3パターンが概ね均等の確率でみられるのだとすると、3分の1の確率では逆転勝利がみられる計算となる。

このように、ロースコアの接戦であっても逆転が生じる確率自体は相応にあるのだが、ハイスコアの接戦の方が双方チームに多くの得点機がある確率が高い分、逆転が生じる確率や、試合中の逆転回数の期待値も高まることは間違いなさそうだ。

なお、逆転勝ちでのルーズヴェルト・ゲームについて、「最大何点のビハインドを逆転したか」別の分布をみると次図のとおりである。

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21世紀以降MLBでのルーズヴェルト・ゲームにおける最大ビハインド別の分布

カープにおける「ルーズヴェルト・ゲーム」は・・

今回の記事では、どうしても言い出し主(F.ルーズヴェルト大統領)のお膝元でもあり、統計の充実しているMLBのデータに依拠してしまうのだが、ブログ全体のテーマはやっぱりカープなので、カープの70年球団史の中でのルーズヴェルト・ゲームを拾ってみた。

カープは球団創設(1950年)以来2020年9月25日までの全9,474試合中、ルーズヴェルト・ゲームでの勝利数が通算38、敗北数が29となっており、全試合数(9,474試合)中ルーズヴェルト・ゲーム(67試合)の割合は0.71%となっている。なお、この割合について、20世紀以降のMLBの数字(1.1%)よりやや低めとなっているのは、一つにはNPBに引き分けの制度がある事情が働いている可能性が考えられる。

次図は、カープの球団創設以来のルーズヴェルト・ゲームについて、試合中の逆転回数別に整理したものである。ピンク色の棒グラフが、カープの勝利(8対7)した試合数であり、黒色破線の棒グラフがカープの負け試合(7対8)の数である。

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カープの球団創設以来のルーズヴェルト・ゲーム(試合中の逆転回数別の分布)

ルーズヴェルト・ゲームにおいて、逆転が生じる試合数も、逆転が生じた試合における逆転回数も多めとなっている点は、20世紀以降のMLBについてのデータと共通している。

因みに、カープ球団初のルーズヴェルト・ゲームは、1952年6月8日の広島県総合グラウンド野球場での大洋との試合で、チーム草創期のスター・白石勝巳選手と、大沢親分大沢啓二氏)の兄で当時カープの四番打者・大沢清選手がそれぞれ猛打賞の活躍をみせ、9回に3点をとってのサヨナラ勝ちであった。

最後に、カープの球史における逆転でのルーズヴェルト・ゲームについても、最大ビハインド別の分布を示しておこう。

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カープの球団創設以来のルーズヴェルト・ゲームにおける最大ビハインド別の分布

本日の中間的結論:ロースコアの接戦でも相応の確率で逆転はみられるが、ハイスコアな接戦では逆転がみられる確率が高まる

以上、最後は多少カープの歴史漫談風になってしまったが、得られた結論は「ロースコアの接戦でも相応の確率で逆転はみられるが、ハイスコアな接戦では逆転がみられる確率が高まる」ということなる。

この結論は、至って当たり前のようにみえるが、実は、日々試合を観ている実感に照らし、一抹の違和感がないわけでもない。というのは、ごく素朴に考えると、投低打高で得点も失点も多いチームは、自ずとハイスコアでの接戦が多くなり、よって、逆転試合数が多くなるように思えるのだが、現実は必ずしもそのとおりでないように思える。このパズルをどのように考えるべきだろうか。この点については、次回、少し考え進めてみたい。