「ルーズヴェルト・ゲーム」考③

前回の記事では、「ロースコアの接戦でも相応の確率で逆転はみられるが、ハイスコアな接戦では逆転がみられる確率が高まる」ことについて、MLBカープのデータをご覧頂いた。このことは至極当然であるが、かといって、チームの得点数・失点数の多いチームにおいて、ハイスコアでの接戦を繰り広げるもとで逆転勝利数が多くなっているか、といわれると、そういうふうには思えない。この2つの事実について、どのように考えるべきなのだろうか。

チーム得点数・失点数の多さと逆転勝利数の多さとは無相関

まず、「チーム得点数+失点数の多さと逆転勝利数の多さ」との関係性についてみてみよう。2009年~2020年のMLBのデータをみると、各チーム・各シーズンのの「1試合当たり平均得点数+平均失点数」と逆転勝利した試合数との相関係数は-0.02に過ぎない。やはり、得点数・失点数の多さと逆転勝利数の多さとは無相関なのだ。

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チーム得点数+失点数の多さと逆転試合数の多さとの関係

このように、一見当たっていそうな仮説が阻却されてしまう一つの説明の仕方として、得点力の高いチームであっても、僅差の試合についてみれば得失点数が平均値・最頻値並みの試合数も相応に多い(=僅差の試合については、常にハイスコアとは限らない)という言い方ができるかもしれない。次図は、2009年~2020年シーズンにおけるMLB各チームの「1試合当たり平均得点数」と「1点差勝利した試合の平均得点数」との相関を整理している。これをみると、確かに得点力が高いチームほど(1試合当たり平均得点数が多いチームほど)、1点差試合に限ってみても得点数が多めとなる(点の取り合いの結果としての1点差勝利が多い)傾向が認められるが、ただ、「1試合当たり平均得点数」が1点増えても、「1点差勝利の試合の平均得点数」は0.6点弱しか増加しないことが分かる。

「さしもの得点力の高いチームも、僅差の試合に限ってみれば、リーグ全体の平均値・最頻値並みの得点しかとれていないケースも少なくない」ことは、その裏腹として、大量得点差の試合数が多いことを示唆している。本稿において、これを「接戦・大差二分説」と呼ぶことにしよう。やや算術的な説明になったが、「接戦・大差二分説」についてもう少し平たい言い方をすると、自チームの得失点数が多いとしても、対戦相手チームの得失点水準が平均値・中央値に近いのだとすると、そのチームと僅差の試合では、やはり自チームの得失点数も平均値・中央値に近いことが多いのではないか、という説明ができるかもしれない。

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2009年~2020年シーズンにおけるMLB各チームの「1試合当たり平均得点数」と「1点差勝利した試合の平均得点数」との相関

それでは、全チームの得点力が高い場合にはどうなるか

もし、上述の「接戦・大差二分説」に対する説明が正しいとすると、自チームだけでなく対戦相手も含め双方の得点数・失点数が多い場合には、ハイスコアな接戦となり易く、よって前回の記事でみたように逆転がみられる確率が高くなる、という仮説を立てることができそうだ。

この仮説に対しては、そもそも全てのチームの得点力が高い状況なんてあり得るのか、という問いが考えられるが、そこで参考になるのが投高打低だったり打高投低だったりと振れてきた野球の歴史である。今回のルーズヴェルト・ゲームのシリーズ第1回目の記事でも述べたとおり、MLBでは1910年代までの投高打低から20年代以降一転、打者優位となった歴史がある。

そこで、長期時系列でMLBのリーグ全体の1試合当たり平均得点数(=1試合当たり平均失点数)と、逆転勝利数の推移を拾ったのが次図である。2本の折れ線グラフが似たような形状となっていることからみてとれるとおり、相関係数0.81、と強い相関が認められるのである。

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MLBのリーグ全体の1試合当たり平均得点数と逆転試合数の推移

本日の中間的結論

このように、本日の結論は、①確かに「ルーズヴェルト・ゲーム」のようにハイスコアでの接戦では、逆転がみられる回数が多くなる、②ただし、得点数・失点数がともに多いチームについて、必ずしもハイスコアでの接戦、そして逆転がみられる回数が多くなるとは限らない。③しかしながら、リーグ全体として打高投低となっている場合には、逆転勝利の回数が多くなる傾向が認められる、ということになる。文章がいささか「逆接につぐ逆接」になってしまったが――。

次回は、こうした整理を踏まえつつ「そもそもファンの多数派は、8対7が最も面白いゲームスコアだと思っているのか」という論点について考察することにしよう。