「ルーズヴェルト・ゲーム」考⑤

前回の記事では、「得失点数がともに多いリーグ」と「得失点数がともに少ないリーグ」のプロコンを整理した。今回は、これまで5回にわたるルーズヴェルト・ゲームのシリーズ最終回として、結局のところ「ファンが最も選好する得点水準」がどの辺りにあるのか考察するとともに、シリーズ全体のまとめをしたい。

ファンの暗黙の了解は「5対4」ないし「4対3」なのでは

単刀直入に結論からいうと、ファンが暗黙のうちに「最も面白いスコア」だと考えているのは、「5対4」ないし「4対3」なのではないか。その根拠は、日米のプロ野球の1試合平均得失点数が4点台であり、前回記事で紹介したグールド氏の説を踏まえると、これこそルール管理者が無意識的に、けれど人為的に着地させてきた得失点水準といえるのではないか、ということだ。

そして、この得失点水準に対するファンの評価が顕在化したのが、2011~12年のいわゆる「加藤球」だったのではないかと思う。いわゆる「加藤球」とは、当時の加藤良三コミッショナーが「国際試合でもNPBの選手のボールに対する違和感が少なくなるように」と導入した統一球のことをいうが、反発係数の低さから長打数が減少した影響で、大きく「投高打低」に振れた(1試合当たり平均得点数は、2010年:4.38→2011年:3.28点に1点以上減少)。正直、なんJ民など声の大きいファンの間では不評で、「加藤球」と言っている時点で既に揶揄が入っているのだが、中には「違反球」と呼称する人が現れたり、この2年間を「暗黒時代」と称する向きまでみられる始末だ。

このことは、「加藤球」の2年間の得失点数の均衡水準が、ファンにとってあまり快いものではなかったことを色濃く窺わせる。現状(2010年以前および2013年以降)より打高投低とすることを望むファンがどの程度いるのか、については計りかねるが、概ね現状の水準感を暗黙の裡に支持しているのではないだろうか。

ところ変われば品変わる?

むろん、上記の説が正しいとしても「5対4」が普遍的に最も面白いゲームスコアかどうかは分からない。お隣の韓国や台湾のプロ野球は日米に比べ打高投低だといわれている。その背景には、野球はサッカーほど国境を越えた選手の行き来が多くない中で、純粋に各チームが優れた投手の人数確保に苦労しているという事情も考えられるが、もはや黎明期と言えないほどの歴史を持つ中で、これぞ地元ファンから支持された着地水準のように思える。

かつてルーズヴェルト大統領が「8対7」こそ面白いと言ったように、現代の韓国や台湾の野球ファンたちも、暗黙の裡にハイスコアの試合こそエキサイティングだと思っているのかもしれない。野球も「ところ変われば品変わる」のである。

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韓国および台湾のプロリーグにおける1試合当たり平均得点数

まとめ

これまで5回にわたりルーズヴェルト・ゲームについて考察してきた。これまでのまとめを整理すると以下のとおりとなる。

・日米プロ野球の1試合当たり得点数は、平均・最頻値とも4~5点であり、「8対7」というスコアは20世紀以降のMLBの歴史の中で1.1%しかみられない。1937年にルーズヴェルト大統領がこうしたハイスコアな試合を面白いと評した背景には、1910年代までの投手優位の時代(デッド・ボール時代)から一転、ベーブ・ルースなどのスターに牽引される形で打者優位(ライヴ・ボール時代)へと変化した、という事情が影響した可能性がある(第①回)。

・確かに、「8対7」の試合では逆転の可能性は――逆転勝ち(または逆転負け)となる試合の割合も、試合中の逆転回数の期待値も、ロースコアでの接戦より高くなる。21世紀入り以降のMLBについてみると「8対7」の試合では8割近い試合で逆転がみられ、試合中の逆転回数が2回、3回、という試合数もそれぞれ33.7%、24.4%の確率でみられた(第②回)。

リーグ内で得失点数がともに多いチームは、必ずしもハイスコアでの接戦、そして逆転の試合数が多いわけではない。ただ、リーグ全体として得失点水準が高い場合には、逆転の生じる試合数も多くなる傾向が認められる(第③回)。

・このように、実際に逆転が起きる回数を多めに確保したいなら、打者優位気味にルールを調整することも一案であろう。ただし、得失点数の多いリーグでは、ワンサイドゲームの比率も高くなりがちなため、「逆転がみられる回数」という魅力と、「ワンサイドゲームが増えてしまう」問題とのトレードオフを考慮する必要が出てくるだろう(第④回)。

日本のプロ野球ファンが暗黙裡に最適と考えているリーグ得失点数の水準感は、結局のところ、現状の1試合当たり平均得失点数である4~5点なのではないか。