各イニング終了時の得点差別の勝率表を作ってみた件

ブログ更新の間があいてしまったのは、標題のデータ整理に膨大な作業量を要してしまったからである。この辺が個人商店で分析作業を行うときの外目に分かりづらい苦労である。

さて、NPBの直近5シーズン(2016~20年)の全試合のボックススコアを基に、1回表から12回裏までの各イニング終了時点における、先攻チームの得点差別の勝率表を作ってみた。細かな数字の羅列で、何のことやら、と思われるかもしれないが、これから数回のシリーズで述べるとおり、様々なデータ分析の基礎とすることができる。

次表は、先攻チームの勝利確率を示しており、例えば1回表終了時点で先攻チームが1点リードの場合、先攻チームの勝率は55.6%となる。逆に、1回裏終了時点で先攻チームが2点ビハインドとなった場合、先攻チームの勝率は28.6%にまで低下する。後攻チームの勝利確率をみたいときは、100%から先攻チームの勝利確率の値を差し引くことにより求めればよい(なお、引き分けについては「0.5勝0.5敗」として計算している)。

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各イニング終了時における得点差別の勝利可能性

まず前置きとして、この勝率表の作り方について御託を述べると、まず、対象とした全試合のボックススコアを集計し、「残りの攻撃イニングで獲得した得点数」の分布を求める。例えば、後攻のチームにとって1回表終了時点であれば残りの攻撃イニング数は9なので、1~9回の9イニングで獲得した得点数分布を求める。7回表終了時点であれば、残りの攻撃イニング数は3なので、7~9回の3イニングで獲得した得点数の分布を求める。

これに基づき、各イニング終了時点における得点差別の勝率表を作っていく。具体的には、各イニング終了時について、そのときの得点差の別に、残りのイニングで先攻チームがとれる追加点数のごとに想定される勝率を求め、集計する。例えば1回表終了時点で先攻チームが1点リードの場合、先攻チームが残りの攻撃イニング(8回)で追加点をとれなかったケースの勝率は、後攻チームが残りの攻撃イニング(9回)で1点もとれない確率として計算できる。同様に、先攻チームが残りの攻撃イニング(8回)で1点をとれた場合の勝率は、後攻チームの残りの攻撃イニング(9回)での得点数が0点ないし1点となる確率となり、先攻チームが残りの攻撃イニング(8回)で2点をとれた場合の勝率は、後攻チームの残りの攻撃イニング(9回)での得点数が0~2点となる確率となる。こうした計算作業をすべての残りイニング数、得点差パターンにつき行っていく。

終盤にかけて1点の重みが増していく

この表からまず読み取れることは、終盤にかけて1点の重みが増していくことだ。例えば、1回表で奪った1点差のリードは、先攻チームの勝利確率を50%→55.6%へと+5.6%ポイント押し上げるわけだが、8回表に1点差リードを奪った場合、勝利確率の押し上げ幅は+25.0%ポイント(50%→75.0%)と、同じ1点でも序盤の5倍近い価値を持つ。終盤での失点は残されたイニング数が少ないだけに挽回可能性が低く、ずしりと重たい。

また、たとえ序盤であっても先制点をあげると試合を優位に進められることは確かである。次図をみても、3回裏終了時点で1点差リードというケースでも、63.5%の確率で勝利することがみてとれる。また、2016~20年シーズンにおいて先制点をあげたチームは、75.8%の確率で勝利している。この中には、序盤の大量得点で一気に勝負をつけた試合も少なからず含まれているが、比較的ロースコアの試合に絞ってみても先制点をあげた方が有利なことに変わりはない。勝利チームの得点数が4以下の試合に絞ってみても、先制点をとったチームは61.6%の確率で勝利している。

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リードしている得点差ごとの各イニングにおける勝利確率の上昇

イニングごとの得点数はMLBと概ね似た傾向

また、勝率表を作る過程で作ったイニングごとの得点数の分布をみると、得点数は、必ず上位打線から攻撃の始まる初回が最も多く、中盤にかけて、打順が2巡目、3巡目に入ってきたところで再び得点が増えてくる傾向が確認できる。こうした傾向は基本的にMLBと変わらない。強いていえば、NPBの方が8回の失点数が少なめであり、もしかすると延長戦が無制限のMLBと比べ、NPBの方が救援投手をつぎ込みやすいといった事情が影響しているのだろうか。

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イニング別得点数(2016~20年NPBMLB

 実は、イニング終了時の得点差別の勝率表を使うことにより、各選手の勝利貢献度を測定することができるのではないか、と考えている。次回は、勝利貢献度分析への活用について述べることにしたい。