各チーム戦力とドラフト順位について(後編:ドラフト順位別の活躍度分析)

今回の2回シリーズの記事では、選手の勝利貢献度の係数を作成し、それを基に選手のドラフト順位(等)別の活躍度の分析を行っている。前編では、NPBの各チームは、ドラフト順位等別にみたときどのような戦力構成となっているのか、分析した。今回は、少し目線を変えて、1990年代以降の入団選手(ドラフト1~6位)がどの程度の割合で、プロ入り後、期待どおりの活躍をしてくれるものなのか、分析したい。

今回も前置きとして、分析の前提を説明させて欲しい。プロ入り後「期待どおりの活躍をしたか」について定量的に分析するとき難しいのは、①単年での活躍度について、どの程度のパフォーマンスを残せば「活躍した」と評価してよいか、②どの程度のシーズン数に及ぶパフォーマンスの発揮をもって、「活躍した」と評価するか、という2点である。この点、様々な考え方があろうが、本記事では、①について「概ねレギュラー級」といえる「簡易WAR1以上」と、「概ねオールスター級」といえる「簡易WAR5以上」の2つの基準を設けて分析した。また、②については、「少なくとも1シーズン以上」に加え、「3シーズン以上」基準を設けて分析してみた。

[概ねレギュラー級の活躍がどの程度期待できるか]

3シーズン以上レギュラー級の活躍をしてくれるのは、ドラ1でも5割以下、ドラ6だと1~2割程度。大学・社会人の方が確率は高い

入団以降、2020年シーズンまでに簡易WAR「1以上」を記録した選手(概ねレギュラー級の活躍をした選手)の比率をドラフト順位別に整理すると、次図のとおりとなる。

これをみると、ドラフト1位が「少なくとも1シーズンはレギュラー級に活躍してくれるか」については、かなりの鉄板の「はず」であり7~8割が「アタリ」となる。こういう数字をみると、スカウト陣がドラ1は失敗できないと思うのはすごく納得できてしまう。なお、野手(赤色の折れ線グラフ)の方が「アタリ」率が高いのは、野手の方が当たり外れが少ないからというより、野手の上位指名数の少なさから推察するに、各球団とも期待値が高い場合に絞って「野手をドラフト1位指名」しているからではないか、と思われる。

この「アタリ」率はドラフト順位別に素直で、順位が下位にいくほど低下していく。ドラフト5~6位になってくると、「少なくとも1シーズンはレギュラー級に活躍してくれる」選手数は、打者で4割強程度、投手で2割程度となる。

そして、「簡易WAR1以上」を「3シーズン以上」達成できる選手数となってくると、さらに厳しい現実がみえてくる。ドラフト1位でも「3シーズン以上」の達成者数は5割に満たず、6位になってくると1割前後にまで低下する。こういう数字を見てしまうと、最近、ソフトバンクの強さの秘訣として育成選手契約の有効活用がよく取り沙汰されるが、千賀投手や甲斐捕手の成功は確率論的にはむしろ稀であり、いかに「センミツ(成功率が低い(1000件中3件)ことの喩え)」であるかを認識せざるを得ない。

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ドラフト順位別の「簡易WAR1以上」を記録した選手数の比率

次に、プロ入りが大学・社会人からなのか、高校からなのか、の別に計数をとってみると次のとおりとなる。まず、レギュラー級での活躍を期待するならば、打者・投手とも、大学・社会人から獲得する方が確実性が高いことが改めてみてとれる。

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ドラフト順位別・大学・社会人/高校別の「簡易WAR1以上」を記録した打者数の比率

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ドラフト順位別・大学・社会人/高校別の「簡易WAR1以上」を記録した投手数の比率

[概ねオールスター級の活躍がどの程度期待できるか]

3シーズン以上オールスター級の活躍をしてくれるのは、ドラ1でも5~7年に一度。大学・社会人か高校かの達成率の差は殆どなく、オールスター級の選手が欲しいなら、高校から獲得した方が(長めの在籍期間を確保できる分)球団にとって有利

入団以降、2020年シーズンまでに簡易WAR「5以上」を記録した選手(概ねオールスター級の活躍をした選手)の比率をドラフト順位別に整理すると、次図のとおりとなる。これをみると、チームの金看板といえる選手は、ドラフト1位でも5~7年に一度程度しか現れず、ドラフト5~6位からそうした選手が現れる確率は5%内外に過ぎないことが分かる。

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ドラフト順位別の「簡易WAR5以上」を記録した選手数の比率

「簡易WAR5以上」の達成率について大学・社会人/高校別にみると、「簡易WAR1以上」についての分析結果(上述)と異なり、大学・社会人と高校との達成率の差が殆どなく、特にドラフト1位については、投打とも高校の方が達成率が上回っている。このことは、(やや稚拙な表現になるが)誰もが一目置く「野球エリート」は、大学や社会人を経由せず、高校から即プロ入りする傾向があることを示唆している。また、ドラフト2位以下に関しても、大学・社会人と高校とで、パフォーマンスの到達度合いが同程度なのだとすると、高校から獲得した方が長い在籍年数を確保できる分、球団にとって有利といえる。

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ドラフト順位別・大学・社会人/高校別の「簡易WAR5以上」を記録した打者数の比率

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ドラフト順位別・大学・社会人/高校別の「簡易WAR5以上」を記録した投手数の比率

カープは、2020年ドラフトで即戦力投手を中心に獲得した。来年の今頃、「あの獲得戦略は、やっぱり鉄板だった」と振り返ることのできるよう、チームに欠かせない戦力として活躍してもらいたいものだ。あと、イチロー氏の薫陶も受けた4位の小林投手には、数年かかってでもオールスター級かそれ以上の大投手となって欲しい、と夢を膨らませてみたりする。