カープの2020シーズン前半戦を振り返る(その①)

異例づくしの今シーズンも折り返したところであり、今日から2回の記事に分けて、これまでのカープの戦いぶりを中間的に振り返ってみたい。

最初に2回シリーズの記事で申し上げたいポイントを述べると、①今年の前半戦はいろんな意味で運が悪い、②良い芽も出てきていて、悲観ばかりではない、の2点である。第1回の本日は「①どのように運が悪いのか」について述べる。

投手力の低下が大きな課題に

まず、今シーズン前半の苦しい戦いぶりの要因は、ズバリ投手力の低下にある。

振り返ってみると、カープ投手力が00年代以降最も整っていたのは2011~15年であり、3連覇中は既に悪化フェーズに入っていた。それでも投手力を維持できていた2016年は、タナキクマル世代がキャリアハイを迎えた中、投打のバランスがとれていた。これに対し、2017年・18年は、投手力が悪化したものの、得点力の高さにより優勝できたといえる。

次図は、2リーグ制導入(1950年)以降の各年・各チームの1試合あたり平均得点数・失点数を偏差値化(失点数が少ないほど高偏差値となるよう計算)し、その偏差値の推移を示したものである。失点防御力(失点数の少なさ)に関しては、2018年の時点で既に偏差値50を割り込んでいる。

その後も、失点防御力は、1990年代末~2000年代のような偏差値30台の「落第生」までの転落は防いでいるが、悪化傾向に歯止めがかかっていない。特に、昨年の失点防御力は一昨年より良化したが、今シーズン前半戦では、残念ながら再び悪化している。

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カープの1試合当たり得点数・失点数(偏差値化した数値)の推移

では、なぜ投手力が悪化したのか

今年前半戦の投手力悪化の要因は、ズバリ外国人投手の不調である。

次図は、平成以降(2019年~)の投手の勝利への貢献度について、「日本人(外国人枠以外)」と「外国人」の別に、セイバーメトリクスの総合指標WAR(※簡易な算式による)のチーム集計値を表したものである。これをみると、今年のカープは、ゴールデンルーキー・森下投手の加入や遠藤投手の台頭などのおかげで、床田投手や何人かの救援投手の不調にかかわらず、日本人投手の勝利への貢献度指数は全体として前年より良化している。これに対し、外国人投手の貢献度指数が著しく低下している。

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カープ投手の日本人・外国人投手別のWAR(勝利への貢献度指数)集計値の推移

外国人投手の貢献度指数の大幅低下の理由は、(イ)K.ジョンソン投手のピークアウトと不運と、(ロ)新外国人投手の不調にある。

(イ)K.ジョンソン投手については以前の記事の後半で述べたとおり、与四球率の増加と奪三振率の低下をみるにつけ、加齢によるピークアウトが否めなくなっており、ただ、それにしても今年はインプレーの打球が高い比率で安打にされている点において、不運である。

(ロ)新外国人投手であるDJ.ジョンソン投手、スコット投手は、残念ながら現状、一軍昇格もままならない状況にある。このところ、外国人スカウトの運に今一つ恵まれない。もとより外国人投手の「当たり外れ」はどの球団も当たるも八卦当たらぬも八卦である。このこと自体はカープに限った話ではない。実際、次図に示す、平成以降のNPBの全外国人投手のWAR(複数年NPBに在籍した選手に関してはピーク年)の分布をみると、65%の外国人投手はWARが0.5に満たないセイバーメトリクスの世界では、平均的な先発投手のWARは2程度、平均的な救援投手は0.3程度で、それ以下の水準の選手は「代替可能」とみなされるため、つまり立派に活躍した外国人投手は3割にも満たないことが分かる。WAR値の分布は、日本人の一軍投手(次グラフの破線)と比べても殆ど同じであり、「並外れた」日本人投手が一握りなのと同様、並外れた外国人投手も一握りに限られるわけだ。そのため、スカウトの最大限の努力にかかわらず、外国人投手の獲得失敗がおきることはやむを得ないと思う。

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スカウトで獲得した外国人投手のWAR分布

(注)グラフ中の「外国人投手」には、ドミニカ・カープアカデミー出身者を含まない(スカウトにより獲得した選手に限定して表示している)。

ただ、それにしても・・とは思う。2000年代後半から10年代央のスカウトの成功率に比べ、やはり、このところ不運が続いているのである。コロナ禍の影響で、外国人選手の獲得に支障のある状態が続いているが、次こそ最高の助っ人を連れてきてもらいたいものだ。

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カープの歴代(平成以降)外国人投手のWAR一覧

(注)上表の斜体はドミニカ・カープアカデミー出身の選手を示す。

さらに、投打の噛み合わせも運が悪い・・・

また、以前の記事の後半で紹介した「ピタゴラス勝率」(得点数と失点数から勝率を推定する方式で、実際の勝率との相関関係がかなり高いことで知られる)をみても、今年のカープは、9月3日現在、実際の勝率(.439)がピタゴラス勝率(.466)を下回っており、このことは僅差のゲームをものにできていない確率が高いことを示唆している。勝負弱いというべきか、運に恵まれていないというべきか・・・。

結論は運の悪さ?

好調なときは「選手の実力」と言い連ねる一方、不調なときに「運が悪い」というのはファンのご都合主義的な言い草だという自覚はあるのだが、それでもやはり今年のカープは、前半戦をみる限り、外国人の獲得という編成上の不運にたたられている印象がある。
では、今年の前半戦は不運ばかりで良い話が何もなかったのだろうか。否、後半戦や来季に向けた希望もある。そろそろ長くなってきたので、その辺の話は次回にしたい。