ネブラウスカス投手から想うMLBの国際化

カープがドビダス・ネブラウスカス投手を獲得した。リトアニア出身として初のMLB選手であり、かつ初のNPB選手となる。150キロ台の速球派投手として紹介されることが多いが、動画サイトの映像をみる限り、NPBではパワーカーブやカットボールを多投すると効果的なのではないかと妄想してみる。

リトアニアというと、日本からみると遠く離れた国で、真っ先に思いつく話題はと問われると、戦前に杉原千畝副領事(カナウス領事館)がポーランド等から逃れてきたユダヤ系避難民等に日本通過ビザを発給したことだろうか。ただ、そんなおかげもあって「両国関係は伝統的に良好」(外務省ホームページ)とのことであり何よりである。野球が盛んな国というわけではなさそうだが、ネブラウスカス投手のお父様がリトアニア初の野球チームを創設し、現在、同国代表チームのコーチを務めておられるらしい。父子二代で同国における野球のパイオニアということになる。

さて、本日は、MLBの多国籍化について少しデータをみてみたい。

多国籍化するMLB

アメリカ大使館の公式マガジンでも、「史上最も国際色豊かになったアメリカの国民的娯楽、ベースボール」という記事が掲載され(2017年5月17日号)、その中で、アフリカ大陸(南アフリカ共和国)出身として初のメジャーリーガーとなったンゴンペ選手(因みに、同国出身のMLB第2号選手が、現在カープのスコット投手)と併せ、ネブラウスカス投手が紹介されている。

MLB各球団では、特に1980~90年代以降、国際化戦略を推し進め、かなりの勢いで多国籍化が進んだ。Baseball Referenceを基に、米国本土以外の出身国・地域別の選手数の推移を整理すると次図のとおりとなる。人数でみるとドミニカ共和国ベネズエラプエルトリコなどの中南米諸国や隣国・カナダが多いが、出身国・地域「数」(緑色の折れ線グラフ)も増加傾向にあり、「多国籍化」が進んでいることが確認できる。

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米国本土以外出身のMLB選手数(出身国・地域別)の推移

完全に小噺であるが、出身国別でみたときの「変わり種」として、アフガニスタン(Jeff Bronkey投手<ブルワーズほか、1993~95年>)ベトナム(Danny Graves投手<レッズ、1996~2006年>)、ロシア(Victor Cole投手<1992年、パイレーツ>)などもいる。因みに、ネブラウスカスの出身国・リトアニアの隣国であるラトビアからも、戦前まで遡れば、出身のメジャーリーガーがいた(Joe Zapustas外野手、フィラデルフィア・アスレチックス<1933年>)。戦前まで遡ったとき、マニアなファンの間で話柄となるのが、Ed Porray選手(1914年、バッファロー・バフェッズ)であり、Baseball Referenceでは出生地が「大西洋上」と分類されている。

なお、Baseball Referenceの出身国・地域別分類は、国籍・民族とは無関係に、生誕地別に整理しているため、例えば2020年のワールドシリーズ制覇を制覇したドジャースのロバーツ監督のように、米国籍ながら日本出身(沖縄県)というケースについては、「日本」に分類されている。

米国以外出身者が支える球団数拡大

このように、増加し続けている「米国以外出身者」は、MLBの戦力水準の維持・向上に大きく寄与している。セイバーメトリクスでは、勝利への貢献度を示す「WAR(Wins Above Replacement)」という投手・野手共通の指標が設けられている。WARの具体的な数値はデータ分析企業によって異なるが、Baseball Referenceでは、0~2が概ね控え選手クラス、2以上がレギュラークラス、5以上がオールスタークラス、8以上がMVPクラスとしている。本日は、同社のWARに依拠して、「米国以外出身」選手の戦力貢献度をみてみよう。

「米国以外出身」選手のWARの年代別分布を調べたのが次図であり、年代にかかわらず、「米国以外出身」選手のリーグ内での全体的な水準感に大きな変化はなく(グラフの山が特に左右に遷移したという様子はみられない)、グラフの「山」が上方に持ち上げられていっている姿がみてとれる。このように、MLBの国際化は、戦力層の拡充に寄与してきた、という言い方ができそうだ。

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米国以外出身選手のWAR分布の推移

この「戦力層の充実」は、MLBの発展に非常に大きく貢献している。リーグ運営上、最も重要なのは、数多くの自国以外出身者を獲得する中で、かなりの活躍をしてくれる選手(レギュラークラスないしオールスタークラス)を一人でも多く確保することだ。この点、WAR水準が2以上、5以上の選手数の遷移をみていくと、いかに「米国以外出身」選手たちが貢献してきたががよく分かる

まず、WAR2以上(レギュラークラス)の選手数の年代別の遷移をみてみよう。次図をみると、MLBのレギュラークラスの選手数の増加は、相当程度、米国以外出身選手によって支えられていることが分かる。特にMLBでは、1961年までは18球団だったのが、徐々に球団数拡大が図られ、現在では30球団制となっている。単純にいえば、現在のMLBが必要とするレギュラー選手数は、1960年代と比べ7割増しとなっているはずで、それがいかに非米国以外出身の獲得によって確保されてきたかがよく分かる。

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WAR2以上の選手数の遷移

オールスターレベルとされるWAR5以上についてみても、同様の傾向が認められ、トップレベルの選手をみても、近年では米国以外出身者の比率が3割近くに達していることが分かる。

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WAR5以上の選手数の遷移

なお、WAR2以上の選手数に占める米国以外出身者の比率について、投手と野手の別に整理すると、一貫して野手の方がやや高めとなっているが、年代を経るにつれて増加傾向を辿り、足許では3割内外を占めるようになっている点では共通している。

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WAR2以上の選手数に占める米国以外出身の比率

結局のところ、恐るべきカリビアン・パワー

最後に、WAR2以上の「米国以外出身」選手について、出身国・地域別に整理したのが次図となる。傾向は本記事の冒頭に掲げら選手数の推移と似ているのだが、やはりドミニカやベネズエラなどのカリブ海沿岸諸国が多数を占めている。特に1980~90年代からの国際化戦略は相当程度、これらカリブ海沿岸諸国からの「発掘」によって支えられてきたといえよう。ただ、これら諸国からの選手数や勝利への貢献度は、2000年代以降、やや伸び悩んできているようにも見受けられる。こうした中、MLBでは、さらなる球団数拡大を控え、日本・アジア市場を含め、一段の国際化戦略を練っているように窺える。

この点、カープでは1980年代にいち早くドミニカにアカデミーを創設した点において時代先取的であるし、足許も多様な出身国・地域数からの選手獲得に動いているあたり、MLB発の国際化の波をいち早く受けているといえる。ネブラウスカス投手には是非、リトアニア本国でも野球という競技の魅力ともども話題になるような活躍をしてもらいたいし、そうした活躍の積み重ねが野球の国際化に繋がっていくと思う。

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WAR2以上の選手数(出身国・地域別)推移