あえて安仁屋算をデータ分析的に語ってみた件(その⑤:まとめ)

これまで、そのと、かなり冗長に「安仁屋算」について語ってきた。要旨を整理すると次のとおりである。

・安仁屋算では、各投手について、前年ないし前々年の実績のうち良い方をベースに若干上乗せされた勝利数が設定されていることが多い。ただ、前年並み以上の勝利数をあげられる確率は5割程度で、特に前年二桁勝利の投手が勝利数を上積みできる確率は2割に満たない。そのため、個別の投手ごとにみると、この目標設定に到達できる確率はそれぞれ1~5割弱程度とみられる。やはりかなり高めの目標である。といいつつ、「およそあり得ないか否か」という目線でみると、決して荒唐無稽ではなく、OBによる後輩への叱咤激励としてはむしろ頷ける気さえしてしまう(その①)。

・投手の能力指標は平均値・中央値周辺に集中しており、その投手同士がマッチアップした結果が勝敗数となるため、勝利数は巡り合わせによって左右される側面が大きい(実際、投手の能力指標と勝利数との相関はそれほど高くない)。そのため、チーム内のすべての先発投手が同時に良い巡り合わせとなり、揃って安仁屋算を達成できる僥倖は、ほぼ得難いと言わざるを得ない(その②)。

・また、安仁屋算に算入されている「中継ぎ投手合計で30勝」は、それ自体2割程度の確率であり得るが、一般に先発投手に多くの勝利数がつく場合、中継ぎ投手につく勝ち数が少なくなる傾向があるため、先発投手だけで70勝するような状況下でさらに中継ぎ投手につき得る勝ち星は14程度と試算され、「30勝」は相当困難その②)。

・投手の勝ち星は投手だけの技量ではなく、打線の援護などを含むチーム力によってもたらされる。そこで、チーム全体の戦力を踏まえ、安仁屋算の勝利数・勝率を達成できる状況について考察すると、少なくとも得点力・失点防御力のいずれかが歴史的な高水準にある上、もう片方も平均以上のレベルでまとまっており、かつ、勝負運にも恵まれている必要がある。これは極めて稀な巡り合わせであり、日米の長い球史を紐解いても、得点力・失点防御力のいずれかが歴史的水準にあるチームは、殆どのケースにおいてもう片方が「穴」だったりする。投打ともにそんな高レベルでまとまっているケースは、全く例がないわけではないが、特に日本の場合、そんなレアケースは、2リーグ制導入間もなくの時期にしかみられない(その③)。

終わりに

安仁屋算は、OBとしての選手へのエールであるとともに、地元放送局を視聴する鯉党向けのエンタメである。ただ、安仁屋さんはシーズン中の解説では選手に厳しいことを言うことも少なくない。二軍投手コーチ時代も、ドラフト2位で入ってきた黒田博樹投手が練習試合で10点とられても「プロは甘い世界じゃないぞ、ということをわかってもらいたかった」として、あえて続投させたこともある。また、一軍投手コーチとして、79~84年黄金期を支えた山根和夫投手をスリークォーターのフォームに変更させたり、その後、津田恒美さんをクローザーに配置したり、といった実績もある。今年のカープの投手陣はいまいちピリッとしないが、安仁屋さんに喝を入れて頂き、復調のきっかけを作っていきたいものだ。

追伸

そういえば、安仁屋さんは米軍統治下での沖縄出身初のプロ野球選手であった。沖縄県出身のスター選手は、かつてはあまり多い印象でなかったが、近年は西武の山川選手をはじめ続出している。沖縄県の野球熱の高まりは、沖縄水産高校の2年連続準優勝(1990~91年)もさることながら、なんといっても沖縄尚学高校の優勝(99年)が大きな起爆剤になったのではないだろうか。その沖縄尚学高校を全国優勝に導いたキャプテンは何を隠そう、現在、カープの球団職員をされている比嘉寿光さんである。