DH制導入による試合結果や戦術への影響を考える③

前回の記事では、DH制導入による得失点数や守備力への影響について整理した。今回は、DH制を導入しているパ・リーグにおける運用実態についてみてみよう。

DHは半分近くが外国人で、7割超が3~5番の中軸打者

DH制導入(1975年)以降のパ・リーグのDH打者の打順別分布をみると4番が最も多く、次いで3番、5番まで含む中軸で7割超を占めるセ・リーグについては、DH制適用は(日本シリーズを除くと)交流戦に限られるが、DHに3~5番の中軸を任せた試合数の割合は63%となっている。

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DH打者の打順

次いで、DHとして先発出場した打者に占める外国人選手の比率をみると、パ・リーグについて44.5%、セ・リーグについて41.3%となっている。

以上を踏まえると、DHは打撃専門ということもあり、外国人選手を中心としたスラッガーが大半で、打順も中軸というケースが多いことが改めて確認できる。DH制の適用機会が交流戦に限られるセ・リーグにおいても、こうした傾向自体はパ・リーグと共通しているが、DHに中軸を任せた試合数の割合、外国人選手をDHとした試合数の割合ともパ・リーグと比べやや低めとなっており、もし本格的にセ・リーグでもDH制が導入された場合には、外国人選手の獲得戦略を含め(チーム内に1人ないし数名の)「DH向け打者」の特定が課題になってくるだろう。

パ・リーグは「DH専業」打者にシーズンを通じてDHを任せる体制なのか

パ・リーグの「DH向け打者」がシーズン中何試合DHとして先発出場したか、つまりシーズンの大半の試合を一人の「DH専業」打者に任せているのか、それともDHでの先発出場を複数の選手に分散させている(例えば、DHを野手とのローテーション的な分業体制を組んでいる)のか、についてデータをとってみた。次図は、シーズン中にDHとして先発出場した試合数毎の選手数(青色棒グラフ)、その選手がDHとして先発出場した試合数(赤色破線棒グラフ)の分布を示す。これによると、シーズンの120試合以上をDHとして出場した「DH専業」の打者が一定数いる一方、複数の選手に分業的にDHとして先発出場させるチーム・シーズンの方が多数であることが分かる。

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パ・リーグ(1975~2020年)のDHとしての先発出場試合数分布

それでは、パ・リーグでDHとして先発出場した選手は、シーズン中の別の試合においてDH「以外」で先発出場する場合、どのポジションで出場する傾向が強いのだろうか。DH制導入以降の実績をとると、最も多いのが一塁手で、次いで左翼手となる。セ・リーグ交流戦の実績についてみても概ね同様の傾向が確認できる。

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DH先発出場したことのある選手の他の先発出場ポジション分布

つまり、パ・リーグでも、ほぼ完全に「DH専業」として固定されているケースも一定数みられるが、多くのチームでは、「DH向け」選手には一塁手左翼手などとの兼用を可能とし、選手の疲労度の管理や相手投手との相性などを踏まえ、複数の「DH向け」選手にDHを分散させている実態がみえてくる。

そのため、セ・リーグにおけるDH制導入議論として、「新たにDH専業の外国人打者を獲得する必要性が生じることが球団経営上のコスト増要因となる」という指摘もあるようだが、(理想形はともかく)パ・リーグの運用実態を踏まえると、DH・一塁手左翼手などを担える選手層を確保できている限り、そうした観点からの移行コストを気にする議論にはやや疑問がある。

中長期的には(また定性的には)外国人選手獲得を含むチームのスカウト戦略に影響を及ぼす可能性

このように、もしセ・リーグにDH制が導入されても、「DH向け」選手の特定作業が生じるほかは、交流戦と同様のチーム運用をすれば、現行のパ・リーグの運用実態に近い状態への移行にはさほど難がないのではないかと想像される。

ただし、中長期的にみれば、DH制の導入は、外国人選手獲得や、ドラフトを含むチーム編成戦略全体に影響を及ぼす可能性がある。DH制がある方が、守備力が低くても長打力の高い外国人選手の獲得に踏み切り易いだろう。ドラフトでも、守備が巧い、打撃力が高い、など「一芸」に秀でた選手の獲得にポジティブになり易いだろう。このブログでは、セ・パの戦力差の一因として、パの方がドラフト2位以下の戦力貢献度が高く、つまりスカウトや育成の巧さを指摘したが、確証はないが、もしかするとDH制の存在がその「巧さ」の遠因となっている可能性も考えられなくない。ただ、もしかすると肝心のこの点について、定量的、客観的なデータをもって挙証することは容易でない。

本日は以上、先発出場させる選手について「DH制」活用の実態をみてきたが、DH制は、代打や継投など、各試合中の作戦運用にも影響を及ぼし得る。この点については、シリーズ最終回となる次回に整理させて頂く。