カープの投げやりな投手応援歌が実は奥深かった件(スイングに関する打者のタイプ別「特徴」の巻)

前回の記事で解説したとおり、打者がどの程度の割合でスイングするか(スイング率)、そして、スイングした球数のうちバットに当てた割合(コンタクト率)は各打者の「タイプ」を表す指標であり、これらの指標値は、それぞれある程度広めのゾーンの中で分布している。本日は、スイング率、コンタクト率それぞれの指標値が高い打者、低い打者によって、どのような打撃成績の違いがみられるのか、分析する。

前置き:スイング率、コンタクト率の高低の組み合わせによる4分類

実際には、前回の記事で示した散布図のとおり、スイング率、コンタクト率の分布は一定のゾーンの中に円形の星雲のように集中しているイメージであり、「指標値が高い/低い」を分ける分水嶺を見出すことは難しいのだが、今回の記事では、便宜上、シーズン毎の「平均値」を基準として、それより上回るか下回るかで指標値が「高い」「低い」と整理することにする。

そうした前提に立って、各打者のタイプを、①スイング率が高く、コンタクト率も高い、②スイング率が高いがコンタクト率が低い、③スイング率が低く、コンタクト率も低い、④スイング率が低いがコンタクト率が高い、という4つのカテゴリーに分類してみた。以下、この4分類に基づき、打者のタイプ毎の「打率」「出塁率」「長打力」について分析する。

打率:コンタクト率の高い選手の方が、高打率の傾向

MLBの平成以降の全打者について、①~④のタイプ別に打率の分布を整理すると次図のとおりとなる。スイング率の高低による影響は殆ど見受けられないが、コンタクト率の高い選手の方が打率が高めとなっている。

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①~④のタイプ別の打率の分布(1989~2020年MLB

その理由として考えられるのが、コンタクト率の高い選手は空振りが少ないため、その分、三振率が低いことである。実際、MLBの平成以降の全打者について、コンタクト率と三振率との相関係数は▲0.880とかなり明確な相関が認められる(相関係数が負値となるのは、コンタクト率が「高く」なるほど三振率が「低く」なるため)。三振率が低くなると、その分、打球がどこかに飛ぶ比率が高くなり、そのうち安打が生まれる確率も高まると考えられる。

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コンタクト率と三振率との相関関係(1989~2020年MLB

出塁率:スイング率の低い選手の方が、高出塁率の傾向

一方、「打率」ではなく(安打に加え)四球などを含む出塁率」についてみると、スイング率の低さの方が重要なキーとなってくる。コンタクト率の影響度は限られ、驚くことにどちらかというとコンタクト率の低い選手の方が出塁率高めという算出結果となった。

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①~④のタイプ別の出塁率の分布(1989~2020年MLB

その理由として考えられるのが、四球率の違いである。スイング率が低い選手は四球を多く選ぶ傾向があり、実際、MLBの平成以降の全打者について、スイング率と四球率との間には一定の相関が認められる(相関係数▲0.686)

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スイング率と四球率との相関関係(1989~2020年MLB

また、①~④の分類毎に四球率の分布を整理すると次図のとおりとなり、四球率の高さは「③>②>④>①」という傾向になっている。①~④の分類毎の四球率の差は、打率の差より大きいため、四球率の「③>②>④>①」の順位がそのまま出塁率の順位(③>②>④>①)に投影される結果となっている。

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①~④のタイプ別の四球率の分布(1989~2020年MLB

なお、コンタクト率が低い方が四球率がやや高くなっている理由については、コンタクト率が低い方が、ゴロであれフライであれ、少ない球数のうちに打席の結果を確定させる確率が低いからではないかとみている。打席中に投手に多くの球数を投げさせれば、自ずと四球を拾える確率も高まると考えられる。実際、打席あたりに要した投球数の分布をとると次図のとおりであり、やはり「③>②>④>①」の順となっている。

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①~④のタイプ別の「打者1人当たりに要する平均投球数」の分布(1989~2020年MLB

長打力:コンタクト率の低い選手の方が、スラッガーが多い傾向

①~④の分類毎の長打力を示す指標(IsoP(注))の分布は次図のとおりとなり、コンタクト率の低い選手の方が、長打力が高めという傾向が観察される。「コンタクト率が低いほど長打力が高まる」とする因果関係はないのだが、上記でみてきたとおり、コンタクト率が低い選手は、概して打率が低く、三振率が高いわけで、それでもなお出場機会を得て活躍している選手というのは、長打力に美点がある、ということなのだろう。

(注)IsoP(Isolated Power)とは、長打力を示すセイバーメトリクスの指標であり、「長打率-打率」によって求められる。「長打率=(本塁打数×4+三塁打数×3+二塁打数×2×単打数×1)÷打数」であり、「打率=安打数÷打数」なので、IsoPをより即物的に示せば「(本塁打数×3+三塁打数×2+二塁打数×1)÷打数」ということになる。

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①~④のタイプ別のIsoPの分布(1989~2020年MLB

本日のまとめ

以上のこんがらがってしまいそうな分析を改めて整理すると、次のとおりとなる。

①スイング率が高く、コンタクト率も高い打者は、打率が高く、三振率が低い傾向がある。ただし、四球率が低いため、打率の高さの割には出塁率が伸び悩む傾向もある。因みに、このタイプの極致というべき選手は、イチローである。

②スイング率が高いが、コンタクト率が低い打者は、分かり易くいえばブンブン丸であり、打率が低く三振率が高く、四球も少ないため出塁率も低い。ただ、その分、長打力が高い選手が多い傾向にある。DeNAのソト選手などが典型例である。

③スイング率が低く、コンタクト率も低い打者は、三振が多いが、四球率が高いため、打数を絞り込める分、タイプ②よりかはマシな打率となる可能性があり、また、打率の低さの割に高い出塁率を残せる傾向がある。さらに、長打力の高い選手も多く「スラッガーでありながら、タイプ②よりかは出塁率が高いこと」が売りになる。西武の山川選手やヤクルトの村上選手が典型例である。

④スイング率が低いがコンタクト率が高い打者は、三振が少なく打率が高く、加えて四球率も高いため、最も出塁率が高くなり易い日本ハム西川遥輝選手やソフトバンク中村晃選手などが当てはまる。なお、このタイプの選手であってかつ長打力が高いと、OPS(=出塁率長打率)が極大化するなど、セイバーメトリクス的には最強のバッターという評価になる。現在、これに最も該当するNPBの選手は、何をかくそう、我らが金看板・鈴木誠也選手である。

次回は、以上の説明を踏まえ、カープの打者のタイプ別分類についてみるとともに、前回記事で予告したとおり、練習や修行を通じ、①~④の分類に示した「個性」を変え、成績アップに繋げたケースが珍しいケースについて解説したい。