カープの投げやりな投手応援歌が実は奥深かった件(データでみる堂林選手覚醒の巻)

前回までの記事で、「スイング率」「コンタクト率」に着目し、打者のタイプ別分類や、タイプ毎の打撃成績面の特徴について述べた。それでは、カープの主要打者は、それぞれどのようなタイプに属するのだろうか。早速、2020年シーズンに100打席以上の各打者のデータをみてみよう(なお、次図の緑色のドットはこのシリーズ第1回目の記事に掲載したのと同じ散布図で、2018~20年のNPBでシーズン150打席以上の打者についての分布)。

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2020年カープ打者(打席数100以上)のスイング率(x軸)・コンタクト率(y軸)分布

これをみると、「鈴木誠也選手最強説」は前回記事で既に述べたとおりなのだが、田中選手もスイング率が低めで、昨年・一昨年中の不調期にあってもその割に出塁率を維持できていた理由もこの辺りに見え隠れしている。また、西川選手はコンタクト率が高めで、この辺に「天才西川」ぶりが見え隠れしている。

一方、このデータをみる限り、昨年ブレイクした大盛選手については、ややスイング率が高めである。「言うは易し」なのだが、更なる成績アップのためには長打力を更に伸ばすか、または三振率の低下を図ることが課題なのかもしれない。また、カープきってのスラッガー・タイプの松山選手は、コンタクト率が平均より高く、「ブンブン丸」よりかは出塁率を稼げるタイプであることが分かる。

データにみる堂林選手の覚醒

次に、カープにとって、2020年シーズンの数少ない収穫の一つであった、堂林選手の覚醒についてデータをみてみよう。鯉党のご各位には説明不要なことだが、堂林選手といえば鯉のプリンス、イケメンにして中京大中京高校時代はエースで四番で全国優勝、そして、かの野村謙二郎さんの背番号7の継承者である。入団3年目の2012年に一軍デビューし、チーム最多本塁打を記録し、オールスターにも出場した。ただ、その後ずっと順風満帆だったわけではなく、2019年までの数年間はレギュラーを奪われ、二軍暮らしの期間もあった。

堂林選手の2012年の成績指標をみる限り、元来、スイング率が高く、コンタクト率の低いスラッガーブンブン丸)タイプ(前回記事中でいうタイプ②)であったとみられる。事実、2012年の堂林選手は、チーム内で屈指の長距離打者であった半面、三振率が両リーグワーストであった。その後の伸び悩みは、三振の多さという弱点を十分に解消しきれない中、持ち前の長打力を発揮する場面が減ったことにあると思われる。

この間、打撃フォームの見直しを図ったり、外野手など幾つかのポジションに挑戦したり、アライさんについて護摩行に参加したり、そして2019年オフには後輩の鈴木誠也選手に「弟子入り」するなど、ひたむきで悲壮にもみえる努力を続けてきた。鯉党なら誰しもこうした姿勢に心を打たれ、毎年のように「今年こそ努力が報われ、好成績を残して欲しい」と願い続けてきたものだ。

そして2020年、ついにそのときがやってきた。「覚醒した」というべきなのか、「本来の姿を取り戻した」というべきなのか、何とも言えないが、ともかく好成績を残してくれた。

この覚醒ぶりをデータでみるべく、堂林選手の打撃成績指標の推移を整理すると次図のとおりとなる(打席数の少ない2014~19年シーズンは一本にまとめている)。これをみると、次のようなことが言える。

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堂林選手の打撃成績推移

(1)三振率が低下し、打率・出塁率がキャリアハイに

2020年シーズンにおいては、三振率が大幅に低下し、打率・出塁率が2012年シーズンを上回る水準にまで上昇した。時々「打率は水物であり、打球が凡打になるか安打になるかは運が左右する」といわれることもあるが、BABIP(打球が安打になった確率)の上昇幅は相応に限定的であり、打率アップは、三振率の大幅低下によるところが大きい

そして、三振率低下とそれによる打率アップの背景にあるのは、「スイング率が高く、コンタクト率の低い」クセの修正である。コンタクト率が大幅に上昇し、スイング率が大幅に低下した。これは、かねてより課題とされてきた変化球への対応が改善した結果なのだろう。これを裏付けるべく、球種ごとの100球当たり得点貢献度を集計すると、2020年シーズンにおいては、変化球のうち特に投球割合が高いとされるスライダーやカーブなどのブレイキングボール系について課題を克服したようにみえる。

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堂林選手の球種別成績(100球当たりの得点貢献度)

このようにスイング率が低下し、コンタクト率が上昇すると、前年対比でいえば、タイプ④(スイング率が低く、コンタクト率が高い)方向へと近づくことになるため、前回記事で整理したタイプ④の打者の特徴が表れる――つまり、三振率が低下し、打率・出塁率とも高まってくるわけだ。

それにしても、2020年のスイング率・コンタクト率の変化幅(2014~19年対比で、スイング率:▲3.16%、コンタクト率:+3.95%)の大きさは劇的である。特に、このシリーズ第1回記事で紹介したとおり、スイング率とコンタクト率との間には「いずれか片方が改善すれば、直ちにもう片方も改善する」といった相関性がないだけに、同時に両方とも大きく変化させることは至難の業である。実際、平成以降のMLB全打者を通じてみても、MLBでは、前年対比でスイング率・コンタクト率の変化幅について、堂林選手並み以上の覚醒をみせた選手数は、1球団・年平均たった0.198人しか存在しない。目覚ましい覚醒振りだったことがデータからも理解できる。

(2)長打力が2012年シーズン並み水準に復活

さらに長打力についても、2020年シーズンのIsoP指標は、チーム最多本塁打を記録した2012年並みの水準に復した。このように、出塁率長打率ともに伸長したため、2020年堂林選手のOPS(=出塁率長打率)は.787と2012年(.718)を大幅に上回る好成績となった。

打球の質についてみても、2020年は、2014~19年シーズンと比べ、レフト方向に無理矢理に引っ張るのではなく、センターからライト方向への打球の割合が増加した。また、打ち上げてしまったというようなフライ性の打球の割合が減少し、半面、ライナー性やゴロ性の打球の割合が増加している。フライ打球の比率が低下しているのに本塁打数が伸びたということは、打ち上げるときはしっかり捉えて飛距離を狙えている証拠だろう。

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堂林選手の打球方向の割合

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堂林選手の打球(ライナー、ゴロ、フライ)の割合

このように、堂林選手の2020年打撃成績は、打率などの面からみても、長打力の面からみても大幅に良化した。2012年シーズンの堂林選手は、スラッガー・タイプとしての発展を期待させる内容だったが、コンタクト率の上昇とスイング率の抑制の結果、2020年シーズン「New堂林選手」のスイング率・コンタクト率の分布位置はクセがとれた標準的な姿に近く、それでいて長打力指標は2012年を上回る

2021年シーズンもこの調子を続けて欲しいし、オフまでにFA権取得が見込まれるが、何としてもカープに残留してもらいたいものだ。

おわりに

今回の3回シリーズ記事では、カープの投げやりな投手応援歌をきっかけに「振らな始まらない」、そして「当てな始まらない」について分析した。そして最後には、堂林選手の覚醒をデータ面からみた。

その堂林選手に続くブレイク候補は、野間選手というイチ押しの声がある。外野は鈴木誠也選手と西川選手が指定席だとして、残り一枠を巡って長野選手や大盛選手が競い、さらに松山選手も外野再挑戦らしく、やがて手術明けの宇草選手も戻ってくるだろうから、そこに野間選手が割って入ってくると大混戦の様相をみせてくる。むろん、高橋大樹選手や永井選手も忘れてはならない。実績十分なベテラン、復活・覚醒を期する中堅、それに飛躍を目指す若手が入り混じったハイレベルな競争を通じ、チームの躍進に繋げてもらいたいものだ。