クロン選手が「当たり」の場合、カープの4番は誰でいくべきか(Excelを使って打順論を分析してみた件)③

前回までの記事では、仮想のケースに基づき、高打率打者、長距離打者の打順と得点期待値との関係について試算した。今回は、もう少し現実のケースに引き付けて、クロン選手が「当たり」だった場合、クロン選手と鈴木選手のどちらが4番であるべきか、占ってみることにしたい。

「2番・鈴木選手、3番・クロン選手」がベストか――。

外国人選手のNPBでの活躍度については、蓋を開けてみなければ分からないのだが、このシリーズ最初の記事の冒頭で触れたとおり、クロン選手に対する期待は高い。
そこで、前回記事まででとり上げた仮想チームをベースとしつつ、トップバッターとして最多出塁率タイトルを獲得した「2017年シーズンの田中広輔選手」を仮定した上で、そこに「2014年シーズンのエルドレッド選手」(本塁打王タイトルを獲得)と、「2019年シーズンの鈴木誠也選手」を加えたケースについて試算してみた。

この前提のもとでは、鈴木誠也2番・エルドレッド3番」が最も得点期待値が高まるとの計算結果となった。次いで「鈴木誠也2番・エルドレッド4番」「鈴木誠也3番・エルドレッド4番」という順である。やはり、出塁率長打率も高い鈴木誠也選手と、長打力が売り物のエルドレッド選手とでは、鈴木選手の打順を前に置いた方が総じて得点期待値が高まるようだ。また、一番打者の高出塁率が期待できるもとにおいては、長距離打者を「2番・3番」に置くのがベストという計算結果となった。

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エルドレッド選手(2014年)と鈴木誠也選手(2019年)の打順配置と得点期待値

(注)1番打者については、田中広輔選手(2017年)とする想定で試算。

河田ヘッドコーチのバント重視の方針と打順論

2021年シーズンからコーチに復帰した河田さんは走塁とバントを重視する路線といわれていることは、以前の記事で触れた。また、一般論として無死一塁からの送りバントは、得点期待値を自ら下げにいく行為なのだが、相手が出塁をあまり許さない好投手で、かつ、バント成功率や走者の走力が高い場合、そしてリーグ全体の長打力が低いほど、送りバントが「少なくとも1点はとれる」という得点確率を引き上げる可能性があることも、その記事で述べたとおりである。

今回の分析でもう少し書き足せることがあるとしたら、送りバントを行う場合、バントを行わない場合と比べ、中軸なかんずく3番による打点を恃みにする度合いが高まるということだ。ここで、仮想チームをベースとして、1番打者として高打率打者、3番~5番に長距離打者を置き、2番打者が送りバントを行うケースと行わないケースの別に、打者毎の期待打点数を計算してみた(※)。その結果、「送りバントを行う」チームでは、総じて得点力が低下する中、3番打者の期待打点数に限っては「送りバントを行わない」チームを僅かながら上回る。また、チーム全体の得点期待値に占める3・4番のウェイトは「送りバントを行う」チーム:35.1%、「行わない」チーム:34.1%となり、「送りバントを行う」チームの方が中軸に頼みにする度合いが高くなっている

(※)試算上、2番打者は無死一塁の場面で必ずバントを行うという、少し現実離れした仮定を置き、85%の確率で成功(一死二塁の状態となる)し、残り15%の確率で失敗する(一死一塁の状態となる)との前提を置いている。

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送りバントを行うチーム、行わないチームの打順別の期待打点数の較差試算

この結論は、3番打者を長距離打者でなく高打率打者に置き換えて試算し直しても変わらない。いずれにせよ、送りバントを企画するチームは、「3番・次いで4番」による打点を恃みにする度合いが高まる一方、5番打者は、送りバントを積極活用する作戦により打点をあげられる機会が低下しがちである。それでも上2つのグラフを比較すると分かるとおり、送りバントを行う、行わないとは別の話として)3・4番の打率が高いほど5番打者へのチャンスの巡りが良くなるため、5番打者の期待打点数は絶対的に高くなる

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送りバントを行うチーム、行わないチームの打順別の期待打点数の較差試算(3番打者を高打率打者とした場合)

結論:「3番西川、4番鈴木、5番クロン」でどうか?!

上述の理屈を踏まえつつ、河田コーチのバント重視路線のもとで、クリーンアップの打順はどうあるべきだろうか。

まず、仮想チーム(2番打者は無死一塁で必ずバント)に1番打者として田中広輔選手(2017年)を置いた上で、鈴木選手(2019年)、エルドレッド選手(2014年)の2人のみを加えるケースについては、3~4番を「鈴木選手―エルドレッド選手」の打順(4.612点)とした方が、「エルドレッド―鈴木選手」(4.581点)を上回るのは、この記事の冒頭で述べた結論と変わらない。

次に、この2人に加え、さらに天才西川こと西川龍馬選手(2018年)まで加え、この3人でクリーンアップを担うこととしたとき、3~5番の打順はどの組み合わせがベストなのだろうか。

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カープのクリーンアップの打順配置別の得点期待値試算

得点期待値を計算すると上記のとおりとなり、甲乙つけ難いものの、算術上「西川―鈴木―エルドレッド」が最も高くなった。左右のジグザク打線を考えるなら、「鈴木―西川―エルドレッド」も捨てがたいのだが

どうやら上記の理屈のとおり、打率(出塁率)の高い西川選手、鈴木選手の2人に打点を挙げる役回りを担ってもらうとともに、チャンスをエルドレッドに引継ぎ、長打でさらに得点を稼ぐ、という打順の組み方がベストのようだ。

かなり長ったらしく御託を述べてしまったが、結論は、クロン選手がエルドレッド級の活躍をしてくれる場合の打順は「3番:西川選手、4番:鈴木選手、5番:クロン選手」が良いと思うのだが、いかがだろうか。