クロン選手が「当たり」の場合、カープの4番は誰でいくべきか(Excelを使って打順論を分析してみた件)【付録】

今回の記事は無味乾燥で申し訳ないが、今回の一連のシリーズ記事(第1回第2回第3回)で使ったExcelシート(打順の組み方と得点期待値との関係試算)の考え方・前提について整理する。

基本的な計算方法は、まずはイニングの先頭打者のパターン毎(=先頭が1番打者のパターンから9番打者のパターンまでの9種類)に、1イニング中の得点期待値を計算し(工程1)、次いで、イニングの先頭打者の各パターンの発生確率を求め(工程2)、両者を掛け合わせ、9パターン分合計する、というものである。

以下、工程1、2について解説する。

工程1:イニング中の得点期待値の計算

イニング中の得点期待値の基本的な計算方法は、ある打者が打席に入る前のアウトカウント・走者状況をベースとして、①その打者の打撃結果を踏まえ、②打席後のアウトカウント、塁上の走者状況がどのように変化し、その間に何点獲得できるか、連鎖的に計算していく、というものである。

(1)各打者の打撃結果(打撃成績)

このうち、①について、各打者の打撃結果は、凡退、単打、二塁打三塁打本塁打四死球の6種類のいずれかと仮定し、打撃成績に基づき、どの打席でも同じ確率と仮定する(併殺、犠打・犠飛、盗塁や走塁死、失策による出塁・進塁は割愛した)。失策による出塁などを割愛した結果、これら6種類の合計値が打席数と一致するよう、打席数=打数+四死球数として計算した。また、単打や二塁打などの発生確率については、本文中で述べたとおり、今回記事ではカープの球団創設以来(1950~2020年)の全打撃成績の平均値を置いた。

(2)アウトカウント・塁上の走者状況

次に②について、アウトカウントのパターンは無死、一死、二死の3種類、塁上の走者状況のパターンは、走者なし、一塁、二塁、三塁、一二塁、一三塁、二三塁、満塁の8種類であり、アウトカウントと走者状況のパターンの組み合わせ数は、3×8=24通りである。イニング中、各打者の打撃結果により、24パターンのいずれかからいずれかへと遷移していく。例えば、無死走者なしから単打を放てば、無死一塁の状況へと変化する。さらにその次の打者が三塁打を放った場合、1点獲得の上、無死三塁の状況へと変化する。多少ややこしいのは、走者二塁の状態から単打がでた場合に、二塁走者が三塁で止まる可能性も、一気に生還する可能性もあることである。この点、今回の試算では、走者二塁の状態からの単打で二塁走者が生還する確率を50%と置いた。同様に、一塁走者が二塁打で一気に生還する確率や、一塁走者が単打で三塁まで進塁する確率についてはそれぞれ35%と仮定した。

これらの前提に基づき、ある打者の「打席前のアウトカウント・走者状況」と打撃結果を踏まえた「打席後のアウトカウント・走者状況」の関係は、表のようにまとめることができる。

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打席前後の走者状況の変化に関する計算式

そして、この表をいわば横方向に集計していくと、打撃結果を踏まえた打席後の走者状況は、次表のとおりとなる。

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打撃結果を踏まえた打席後の走者状況の計算式

この集計表を基に、打席に立った打者の「打撃結果」として、想定する打者の打撃成績データを代入すると、打席後のアウトカウント・走者状況の発生確率を計算することができる。例えば無死一塁の状況で打席を迎えた打者について、その打席後のアウトカウント・走者状況は次のようになる。

「走者なし」となる確率=本塁打

「走者一塁」となる確率=凡退率(→アウトカウントが+1)
「走者二塁」となる確率=二塁打率×0.35
「走者三塁」となる確率=三塁打
「走者一二塁」となる確率=単打率×0.65+四死球
「走者一三塁」となる確率=単打率×0.35
「走者二三塁」となる確率=二塁打率×0.65
「満塁」となる確率=ゼロ

あとはひたすらこの計算を繰り返していく。例えば、

「打席後に走者二塁となる確率」
=打席前に「走者なし」の確率×「走者なし」からの打席後に「走者二塁」になる確率
+打席前に「走者一塁」の確率×「走者一塁」からの打席後に「走者二塁」になる確率
+打席前に「走者二塁」の確率×「走者二塁」からの打席後に「走者二塁」になる確率
+打席前に「走者三塁」の確率×「走者三塁」からの打席後に「走者二塁」になる確率
+打席前に「走者一二塁」の確率×「走者一二塁」からの打席後に「走者二塁」になる確率
+打席前に「走者一三塁」の確率×「走者一三塁」からの打席後に「走者二塁」になる確率
+打席前に「走者二三塁」の確率×「走者二三塁」からの打席後に「走者二塁」になる確率
+打席前に「走者満塁」の確率×「走者満塁」からの打席後に「走者二塁」になる確率

となる。これを全ての走者状況について計算していく。

塁上の走者状況だけでなく、アウトカウントの遷移についても同様に集計していく。計算を繰り返して(打順を進めて)いくうちに、やがて「凡打が3回発生する確率」は極限まで1に近づいていく。ただ、計算上は、計算を何回繰り返しても「凡打が3回発生する確率」が完全に1にはならないため、便宜上、ほぼ「1」に達したところで(打者数21名までで)計算を打ち切っている。

なお、この際、どの打順で「3回目の凡打となるか」の確率分布も併せて算出しておく。この確率分布は後から述べる工程2で役立つ。

(3)イニング中の得点期待値

上述(2)で述べたアウトカウント・走者状況が遷移する中で入る得点数についても、(2)と同様の計算方法により求められる。すなわち、打者が打席に入る前の走者状況毎の、打撃結果を踏まえた得点期待値については、次表のとおり整理できる。各打者が打席に入ったときの走者状況については既に(2)で算出したとおりであり、各打者の打撃成績を当てはめることにより、イニング中の得点期待値を求められるわけだ。

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打席前の走者状況ごとの打撃結果を踏まえた打席後の得点数計算式

以上の計算を、イニングの先頭打者のパターン毎(=先頭が1番打者のパターンから9番打者のパターンまで)9通り行う。また、既述のとおり、各パターンについて、どの打順の選手で「3回目の凡打となるか」の確率分布も併せて求めておく。

工程2:イニングの先頭打者の発生確率

イニングの先頭打者の各パターンの発生確率は、各パターンの「どの打順の選手で『3回目の凡打となるか』の確率分布」を用いて算出する。まず、初回については計算の必要がなく、必ず1番打者が先頭となる。また、2回の攻撃については分かり易い。例えば初回の攻撃で「3回目の凡打」となる確率が、3番打者:25%、4番打者:20%、5番打者:15%、6番打者:10%・・の場合、2回の攻撃での先頭打者は、4番打者である確率が25%、5番打者の確率が20%、6番打者15%、7番打者10%となる。

3回の攻撃以降については、多少ややこしい。2回の攻撃において、

(a)先頭が4番打者の場合(確率25%)→2回の攻撃で「3回目の凡打」となる確率分布が、6番打者:20%(6a)、7番打者:15%(7a)、8番打者:12%(8a)・・
(b)先頭が5番打者の場合(確率20%)→同じく確率分布が、7番打者:30%(7b)、8番打者:20%(8b)・・
(c)先頭が6番打者の場合(確率15%)→同じく確率分布が、8番打者:35%(8c)、9番打者:30%(9c)・・

だとすると、例えば3回の攻撃の先頭打者が9番となる確率は、2回の攻撃での先頭打者のパターンの発生確率と、そのもとでの8番打者で「3回目の凡打となる」確率とを行列計算のように掛け合わせ、合計することにより計算できる。具体的には、

(a)2回の先頭が4番打者(25%)×12%(8a)
+(b)2回の先頭が5番打者(20%)×20%(8b)
+(c)2回の先頭が6番打者(15%)×35%(8c)
+・・・

という要領で計算していく。この計算を9回まで続けることにより、試合中・各イニングで先頭打者となる打順の発生確率を算出する。

注意点

この計算方法には、いくつか割り切っている点がある。

まず、併殺や失策による出塁、犠打・犠飛を無視している点である。また、盗塁や盗塁死を勘案していない他、2塁走者の単打での生還率など、選手毎の走塁能力の違いを無視している。ただ、これらの要素が打順の組み方次第で影響を受けるにせよ、得点期待値にかかる結論を大きく変えるほどの違いが生じるとは考え難い。

あと、計算方法というより、試算によって何を導きたいか、というコンセプトの問題なのだが、攻撃回数は一律「9回」として計算し、代打・代走による選手交代は一切勘案していない。

さらに、選手の好不調や相手投手との相性なども考慮していない。それに、「その打順に据えることによる打撃成績への影響」も勘案していない。これらの点についてはセイバーメトリクスの先行研究でも大概そうなのだが。実際には「4番打者の矜持や重圧」というような心理的影響もあるだろうし、強打者の次打者が凡庸な打者であるか好打者であるかによって、相手投手に勝負してもらえる確率が違ってくるため、四球率や得点数が変わってくる可能性がある。

このように、あくまで試算は試算であって、いかにモデルを精緻化しようと所詮、一定の前提に基づく演算結果に過ぎない。ただ、一般的な傾向を掴む上では、複雑で偶発性の高い要件をいったん除去して分析した方が、クリアにインプリケーションを得易いことも確かだと思い、今回シリーズの記事では、上述の(割とシンプルな)前提に基づき、仮想チームを想定して考察した次第である。