クロン選手が「当たり」の場合、カープの4番は誰でいくべきか(Excelを使って打順論を分析してみた件)①

プロ野球がキャンプインした。球春到来である。

各球団ともコロナ禍で新規獲得した外国人選手の入国が遅れている中、カープが獲得したクロン選手は、年初には日本入りを果たすというファインプレーを成し遂げ、キャンプインから姿をみせてくれている。そればかりか、早速、日本野球に順応するとともに、チームに溶け込もうとする真摯な姿勢が伝わってきて好感度が高い。以前の記事で紹介したとおり、クロン選手は米マイナー(AAA)の2019年本塁打王であり、筆者自身は6~7番あたりを担ってもらうイメージかと思ってきたが、ファンの間の期待値は高まる一方で、エルドレッド選手以来の活躍を待望する声が多く聞かれる。

こうした期待の高まりに拍車をかけているのが、コーチや解説者たちのコメントである。迎コーチは「体の大きさもあってエルドレッドに近い。ただ、それにプラスしてボールに対して(バットを)ラインに入れられる能力が高い。柔らかさはカントリーよりあるのかな」とコメントされている。達川さんも「モノが違いますね」「パワーはエルドレッドと同じくらいということなんですけれど、エルドレッドより良い部分は、右のヒジの入りが非常に良いです」「この入りのバッターは、ボールの軌道とバットの面がきっちり合うんでね。当たる確率は高いですよ」とのことだ。

それでは、クロン選手がエルドレッド選手並みの「当たり」の場合、4番打者はクロン選手と鈴木選手のどちらとするのが最適なのだろうか。打順の組み方による得点期待値の計算は、R言語などを使ったプログラミングを要するのではないかと思い込んできたため、これまでなかなか手が出なかったのだが、Excelでいい具合に簡易なモデルを作ることができたので、そちらを使って分析していきたい(モデルの説明はシリーズ最終回の「付録」参照)。

打順の組み方による得点期待値への影響

ここから長い前置きとなってしまい恐縮なのだが、まずは打順の組み方による得点期待値への影響について整理したい。

「肝」となるところを最初に述べるならば、得点期待値を最も高めるための要素は、チームの金看板というべき好打者の①打席数の最大化、②好打者に打順が巡ってきたときの走者数の最大化、の2つである。

「長距離打者」を1人加えるならば4番(次いで僅差で3番)、「高打率打者」を1人加えるなら1番

まず分かり易いところから、打撃成績が全員とも同じという仮想チームを想定し、その中に「長距離打者」ないし「高打率打者」を1人だけ加えた場合、どの打順に据えると得点期待値を最大化できるか試算した。

前提の説明をさせて頂くと、仮想チームの打撃成績については、カープの球団創設以来(1950年~2020年)の全打撃結果の平均値をとってみた。因みに、この前提どおりの仮想チームの得点期待値は3.74点である。

(前提)
「単打」/打席数:16.6%、「二塁打」/打席数:3.6%、「三塁打」/打席数:0.4%、「本塁打」/打席数:2.4%、「四死球」/打席数:8.8%

また、「長距離打者」については、実際には四球が多いなど出塁率も高いケースが多いのだが、ここでは純粋に長打力による影響を抽出するため、本塁打率「のみ」特に高い打者を想定することにした。具体的には、上述の前提をベースとしつつ、本塁打率についてのみ、カープの球団最多本塁打を記録した1980年の山本浩二さんの本塁打率(539打席中44本塁打)に置き換えた(本塁打率を引き上げた分、単打率を減じることで、打率を上記前提並みに揃えた)。

「高打率打者」については、打率ないし出塁率「のみ」特に高い打者を想定することにした。具体的には、上述の前提をベースとしつつ、打率が1988年の首位打者タイトルの正田耕三さんの成績:.340となるよう、単打率のみ引き上げてみた。

(1)長距離打者を1人加えた場合の試算結果

「長距離打者」を1人加えた場合の試算結果は、長距離打者を4番に据えるのがベストで、それに僅差で続くのが3番となった。「スラッガーは4番ないし3番であるべき」という伝統的な言説は的を射ていたのである。

ただ、同時に指摘しておきたいのは、得点期待値がベストの打順(長距離打者4番)とワーストの打順(同9番)との差は0.036点である。セイバーメトリクスの世界では、概ね「得失点数10=1勝相当」と捉えており、「0.036点」は、約270試合――およそ2シーズン弱相当――について1勝分の違いというイメージである。この違いをごく限定的なものとみるか、それとも、監督の差配一つで出すことのできる違いとしては大きいとみるかは各人の価値観次第だろう。なお、長距離打者を4番に据えた場合と3番に据えた場合の得点期待値の違いは0.005点の僅差であり、日々観戦しているファン目線からは殆ど不可視的である。

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長距離打者をどの打順に加えると得点期待値を最大化できるか

長距離打者を中軸に据えることにより得点期待値を最大化できる理由は、イニングの先頭打者から3番目あたりの打者が最も走者を溜めた状態で打席に入れる確率が高く、イニングの先頭打者は1番打者が務めることとなる確率が最も高いから(初回の攻撃において必ず先頭打者が1番打者となるため)である。

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長距離打者を1人加えた場合、その打順による長距離打者の打席数・走者状況の違い

3番ないし4番あたりが最も走者数がたまった状態になり易い、という現象は、チーム全体の打率(出塁率)の全体的水準にかかわらず当てはまる。ここでチーム打率を、カープ球団創設以来最低水準(1956年の.214)に置き換えて計算し直しても、長距離打者のあるべき打順が「4番、次いで3番」という結論に変わりはない。

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長距離打者をどの打順に加えると得点期待値を最大化できるか(チーム打率が低い場合)

(2)高打率打者を1人加えた場合の試算結果

次に、高打率打者を1人加えた場合について試算すると、トップバッターとすることがベストという結果になった。この場合も打順による得点期待値の差は微妙で、最大値(高打率打者1番)と最小値(同9番)との差は0.036である。

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高打率打者をどの打順に加えると得点期待値を最大化できるか

高打率打者を上位に据えた方が得点期待値が高まる理由は、打順が上位になるほど試合中に巡ってくる打席数が多くなるため、チームとしての総安打数を増加させ、もって得点可能性を高められるからである。

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高打率打者を1人加えた場合、その打順による高打率打者の打席数・走者状況の違い

このように、平均的ないし平凡なチームに好打者を1人だけ加える場合、それが打率の高い打者であれば打席数が多くなり易い上位に置くことが適当であり、長打力のある打者であれば走者数の貯まり易い中軸に据えるのがベスト、というのが本日の結論である。ただ、現実の野球チームはこんなにシンプルではなく、打者毎の個性がもっと強いはずだ。そこで、次回は、もう少し前提を複雑にして試算作業を続ける。