パ・リーグの剛速球投手に魅せられて――

日本シリーズは、実にあっけなく2年連続で4タテにて終戦となった。報道をみていると、これだけの圧倒的格差は「セ・リーグ全体の問題」とされ、その理由として「パ・リーグセ・リーグと比べ、投手陣の直球が速い(それに対抗すべく、攻撃陣も振りが鋭く鍛えられている)」という論調が多く聞かれる。

確かに、読売にとって、ソフトバンク各投手の直球平均球速は、普段対戦しているセ5球団と比べ全体的に高めではある(次図は、各投手を平均球速の速い順に並び替えた上で、投球イニング数を累積表示したもの。例えばA投手<平均球速151キロ>の投球イニング数が160回、B投手<平均球速149キロ>の投球イニング数が140回の場合、x軸の0~160回までが151、同161~300回までが149となるよう表示)。

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読売にとっての、レギュラーシーズン対戦相手(セ5球団)と日本シリーズ対戦相手(ソフトバンク)の投手直球平均速度の分布比較

この論調は、果たして本当なのだろうか。本日は、セ・パ投手陣の直球の球速比較を行ってみたい。

意外な事実だが、おしなべてパ・リーグの方が直球が速いというわけではない

まず、いきなり混乱を招きそうだが、各チーム全体の平均値で比べたとき、おしなべてパ・リーグの方が直球の球速が速いとは言えない。12球団中最も平均球速が速いのはDeNAで、次いでソフトバンクとなっており、それ以降はセ・リーグの球団が上位を占めている。

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チーム毎の直球平均速度の比較(2020年)

確かにパ・リーグの方が直球の速い投手が多い

それでは、チーム毎ではなく、投手毎の平均球速の分布(2020年)をみてみよう。次図は、セ・パ両リーグ各投手を平均球速の速い順に並び替えた上で、投球イニング数を累積させていったものである。

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セ・パの投手の直球平均速度の分布

これをみると、上位1割5分くらいまでの投球回(900回あたり)まではパ・リーグの投手の球速が上回っており、剛速球投手はパ・リーグにより多く集まっていることが分かる。ただ、球速が中位あたりのゾーン(投球回1,000~2,000回あたり)ではセ・パの球速は概ねイーブンとなり、累積回数が嵩んできたゾーン(2,200回超)ではセ・リーグの投手の球速が上回っている。つまり、セ・リーグの方が140キロ台前半から半ばにかけての投手が多く集まっている一方、パ・リーグは、相対的に速球派と非速球派(軟投派ないし技巧派)の別が割とはっきりしていることが窺える(上記グラフの「分散」値は、セが17.9、パが23.0)。

次に、この分布をチームごとに分解してみると、ソフトバンクは投手陣全体にわたってパ・リーグ内での直球が速さが際立っている。一方、セ・リーグについては、上述のとおり、最もチーム平均球速が速いのはDeNAであるが、それはパットン投手やエスコバー投手などの救援陣の球速の速さがチーム全体平均を押し上げている面が強く、投手陣全体にわたる分布としてみると、チーム間の球速分布の格差が相対的に小さいようにみえる。

因みに、カープの投手陣は平均球速最速が島内投手、次いでフランスア投手、ケムナ投手、塹江投手。先発投手で平均140キロ台後半なのは森下投手と薮田投手(ただし、平均球速の計測にはリリーフ登板を含む)。それ以外の投手は平均140キロ台前半以下で、中村祐投手と野村投手は平均140キロを下回っている。

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セ・リーグ投手の直球平均速度の分布

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パ・リーグ投手の直球平均速度の分布

以上を総合すると、2020年シーズンをみる限り、①パ・リーグが押しなべて投手の直球平均速度が速いとは言えない、②ただ、ソフトバンクは、投手陣全体にわたって直球速度が速く、パ・リーグ内で飛び抜けた水準にある、③また、セ・リーグは全体的に平均140キロ台前半~中盤の投手が多く分布しているのに対し、パ・リーグの方が速球派と軟投派・技巧派との別が(相対的に)はっきりしており、球速の上位者はパ・リーグの方が多い、ということになる。

パ・リーグの方が「速球派の好投手が多い」

ここで、言うまでもないことを敢えて述べると、球速の速さ=投球パフォーマンスの良さとは限らない。(守備などの影響を受けない純粋な)投手のパフォーマンス指標であるDIPS(Defense Independent Pitching Statistics)と平均球速との関係をみると、やはり無相関である(相関係数:-0.13)。要は、球速が速くてもパフォーマンスの悪い投手もあり得るし、球速が速くなくても優れたパフォーマンスを残す投手もあり得るということだ。

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DIPSと直球平均速度との相関(2020年)

そのため、「パ・リーグの方が直球が速い」からレベルが高い、などと話題にされるのは、「パ・リーグの方が直球の速い投手が多い」からではなく、より正しくはパ・リーグの方が速球派の好投手が多い」からというべきだろう。投手の勝利への貢献度を測る指標であるWAR(Wins Above Replacement)指標に着目し、セ・パそれぞれ上位40人について平均球速を比較すると(x軸が各リーグ内でのWAR順位、y軸が直球平均速度を示す)、上位12位あたりまで殆どパ・リーグの方が上回っていることが分かる。つまり、パ・リーグの方がリーグを代表する好投手に速球派が多いということだ。

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セ・パのWAR上位者の平均球速の比較

つまり、球速の上位者はパ・リーグの方が多く、かつ、これらの投手の多くがリーグを代表する好投手であるがゆえ、パ・リーグは速球の多いパワー・ベースボールだという見方が一般に支持されるようになっている、ということなのだろう。

カープも救援陣を中心に速球派の投手が台頭してきており、フェニックスリーグでは矢崎投手も調子を戻しつつある。直球が速ければよいというわけではないが、変化球と組み合わせながら速球を活かし、ソフトバンクを凌ぐ投手陣となっていくことを期待したい。