ドラフトは一本釣りか競合覚悟か

カープはルーキーの森下投手が前評判どおり素晴らしい投球をみせている。こういう活躍ぶりをみると、この選手をよくドラフト会議で一本釣りできたものだと思えてしまう。

「一本釣り」ドラ1と「籤競合」ドラ1のパフォーマンス差はあまりない

ところで、素朴な直観としては、ドラフト会議で籤引きになる選手は、複数球団が競合覚悟でとりにいったわけだから、プロ入り後も、一本釣りの選手より平均的により高いパフォーマンスを発揮したのではないかと思ってしまいがちであるが、本当にそうなのだろうか。

ここで、指名希望選手について籤引きを行うドラフト方式が導入された1978年以降のドラフト1位指名選手を対象として、別記事で示した計算方法に基づき、各選手のキャリアハイの簡易WARを測定し、「本指名1位(籤引き競合あり)」「本指名1位(一本釣り)」「外れ1位」の別に集計してみた。

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ドラフト1位選手のキャリアハイWAR値

上記のグラフでは、横軸にキャリアハイWAR値をとり、縦軸にそのWAR値をとった選手数の比率を示している。WAR値は、数値が高いほど優れており、5ないし6を超えるとオールスターといわれている。これをみると、本指名1位であれ外れ1位であれ、むろん、プロ入り後のコンディション・故障などにより、大成できなかった選手の割合が高く、まずもって改めてこの世界の厳しさが窺われる。そのうえで、籤引き競合の有無については(赤・青のドット)、一概にいずれのパフォーマンスが高いとも言い切れないようにみえる。一方、いわゆる外れ1位(グラフ中、灰色の×印)については、本指名1位の選手に比べ、高いWAR値を残した選手の比率がやや低めとなっているようにみえる。

球団による籤運の良し悪しは・・

このデータをみると、ドラフト会議では無理に籤引き競合に突っ込まず、有望とみた選手の一本釣りを狙うことが最適戦術のようにみえるが、現実に競合が生じるかどうかはドラフト会議本番になってみないと分からないことでもある。

そのうえで、球団による籤運の良し悪しはあるのだろうか?平易な回帰分析的考え方に基づくと、一時的に良し悪しが現れることはあっても、長期的にはイーブンに収斂するはずと言えるが、1978年以降の実データはどうなっているだろうか?

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ドラフト1位の「籤運」

上表は、各球団の1978年以降のドラフト会議1位指名における籤引きの勝敗・籤運をまとめたものである。例えば、カープの場合、1978年以降、籤引き競合に合計24回応札し、うち8回勝利している。ただ、これをもって「籤運3割3分」とは言えまい。なぜなら、2球団競合の籤引きであれば勝利の期待値が0.5なのに対し、5球団競合であれば0.2なので、同じ「勝利」でも期待値対比での「運の良さ」が異なるはずだ。そこで、上表では、競合球団数に応じた期待値と実際の勝利数との差をとっている。これをみると、カープは運が特に良いわけでも悪いわけでもなく、運が強いのは、西武、ロッテ、楽天あたりで、一方、オリックスは運が悪いということになる。

籤運と(事後評価として)良い選手をとれた運

ただ、ファン目線から「運の良し悪し」を論じるとき、純粋に籤引きの勝敗というより、その選手のその後の活躍度合い(実際に活躍した選手を籤で獲得できたという意味での運)も念頭に置かれる場合が多いのではないか。

そこで、1978年以降、籤引きの行われたドラフト1位指名(計88件)に関し、本指名された選手(籤引き対象となった選手)と外れ1位指名された選手のキャリアハイWAR値の差を拾ってみたのが次グラフである。

グラフの横軸は時系列で、1978年以降の籤引き抽選の行われた選手を並べている(固有名詞は省略しているが)。縦軸は、「本指名1位選手のキャリアハイWARと外れ1位選手の同WARの差」の値をとっている。つまり、正値だと、本指名選手の方が高いWAR値を記録した(負値だと外れ1位選手の方が高いWAR値を記録した)ということになる。因みに、外れ1位の選手が複数いて「本指名選手とのWAR値の差」にバラツキがある場合、バラツキの範囲を水色の棒グラフで示している(紺色の折れ線グラフは平均値)。

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本指名された選手と外れ1位選手のキャリアハイWAR値の差

これをみると、やはり正値をとっている(本指名選手の方が活躍した)ケースが件数としては多いが、外れ1位選手の方が高いWAR値を残したケースも決して少なくないことがみてとれる。

これを球団別に集計するとどうなるだろうか?

 

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指名選手のWAR値と外れ1位選手のWAR値(平均)の差

このグラフは、1978年以降、球団別に籤引きに勝って交渉権を獲得した選手のキャリアハイWARと、その際に他球団が外れ1位で獲得した選手のキャリアハイWAR(3球団以上競合だった場合、複数球団の獲得選手の平均値)を比較し、その累計値を整理したものである。これをみると、籤引きに勝利し、菊池選手(09年)、松坂選手(98年)、清原選手(85年)、石毛選手(80年)などを獲得した西武がダントツ1位となっている。また、木田選手(79年)、中田翔選手(07年)、有原選手(14年)などを獲得した日本ハムも高い数値を出している。ファンの間ではしばしば「籤運が悪い」と言われている(と思うのですが)読売や阪神も、それぞれ松井選手(92年)・原選手(80年)、岡田選手(79年)・江川選手(78年)などの獲得が大きく効いている。もっとも、阪神にとっての江川獲得をどのように論評するかについては、曰く言い難い面もあるのだが。

わがカープは、近年の籤引きで獲得できた中村奨成選手や小園選手がまだキャリアハイに達していないことや、かつて木田選手(79年)に入団拒否されたり、川島選手(87年)が怪我に悩まされたり、といった事情が働いてか、負値(つまり、籤に負けた他球団の方が結果論としては、より高いWAR値を出した選手の獲得に成功した)になっている。

こうやってみると、籤運が良いのは、純粋な籤運でみても、その後実際に活躍した選手を籤で獲得できたという意味での運をみても、これまでのところ西武なのか。

カープにも運が向いて欲しい。いや、大瀬良選手に加え、中村選手や小園選手をとれたのだから、既に運気が上向いているのだと信じたい。