ジョンソン投手と雨

ジョンソン投手は雨が苦手?

2016年に沢村賞を受賞したクリス・ジョンソン投手は、いうま でもなくカープの左腕エースであるが、鯉党の間では、時折、 雨天が苦手という声が聞かれる。本記事では、ひとまずその真偽の ほどを調査してみた。

調査方法は、ごく単純に、ジョンソン投手の登板日(いずれも先発 )ごとの成績を、「雨の日」と「晴れ(雨以外)の日」 に分けて集計した。「雨の日」か否かは、気象庁のホームページを 基に、試合開催地の降雨量(0.1ミリ以上) の有無により判断した。ただし、ドーム球場開催の場合、 当地の天候にかかわらず「晴れの日」に分類した。 2015年のカープ入団以来、2020年7月1日までの総登板試 合数は120であり、うち「雨の日」が29試合、「晴れの日」 が91試合である。

やっぱり雨が苦手?!

まず、登板日ごとの防御率自責点÷その試合での投球回数×9) の分布を「雨の日」「晴れ(雨以外)の日」ごとに整理したのが( 図表1)である(縦軸は「雨の日」「晴れの日」それぞれの登板機会について、横軸の防御率で抑えられた試合の割合)。これをみると、「晴れの日」の防御率は平均2. 44であり、防御率0~1点台相当の試合の割合が高いのに対し、「雨の日」の防御率は平均3.09であり、大量失点した試合の比率も相対的に高くなっている。

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(図表1)登板機会ごとの防御率の分布

また、登板日毎の投球イニング数の分布を整理したのが(図表2) である。平均投球イニング数で比べると「晴れ」の日(6.3回) と「雨の日」(6.2回)であまり大差がないようにみえるが、分 布をみると「雨の日」は6回までに交代している試合の割合が高い のに対し、「晴れ」の日は7回までは投球している試合の割合が高いことがみてとれる。

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(図表2)登板機会ごとの投球回数の分布

追補(8/29日):雨に弱いのはよいのだが・・

天候要因はともかく、このところ気になるのは、2020年シーズン、ジョンソン投手の調子がいまいち上がってこないことだ(8月27日現在)。まず、不都合な真実から述べると、ジョンソン投手の(野手の守備や運に左右されない)パフォーマンスを示す指標FIP(Fielding Independent Pitching)は、加齢に伴い年々悪化している(グラフの2020年計数は8/27日までの実績値。以下同じ)。

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ジョンソン投手のFIP推移

また、四球の割合(BB/9:9イニングあたりの与四球数)は、比較的安定して先発投手の平均並みの水準を維持していたが、今シーズンに限っては、これまでのところ、リーグ全体の数値を大きく下回る水準にまで悪化している。

一方、奪三振率(K/9:9イニングあたりの奪三振数)についても、昨年までは、2017年を除きリーグ全体の平均並みの水準を維持してきたが、今シーズンはこれまでのところ6前後にまで低下している。

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ジョンソン投手のBB/9(9回当たりの与四球率)の推移

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ジョンソン投手のK/9(9回当たりの奪三振率)の推移

四球の増加や奪三振の減少が要因となってか、今シーズンは、1イニングあたりに許した走者数(WHIP<Walks plus Hits per Inning Pitched>)が大幅に増加している。WHIPは一般に「1.2未満ならエース級であるが、1.4を上回るようだと問題」といわれる。昨年までは問題のない水準に収まっていたが、今シーズンのこれまでの数字はかなり悪い。この数字一つで、苦しいピッチングが続いていることが窺える。

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ジョンソン投手のWHIPの推移

けれど、今シーズンの成績悪化には不運による面もある

このように、数字を見る限り、残念ながら選手としてのピークを過ぎ、衰えのフェーズに入っていると思わざるを得ない。

ただ、それにしても今年のジョンソン投手については、運に恵まれていない面もあると思う。その根拠が、このブログの他の記事でもとり上げているBABIP(Batting Average on Balls In Play)の数値である。BABIPとは、本塁打を除くグラウンド内に飛んだ打球が安打になった割合を示し、インプレーの打球が安打になるか凡打に終わるかは運や野手の守備力次第という面もあることから、投手のタイプの差にかかわらず長期的には.300前後に収斂する、といわれる。つまり、BABIPが.300を上回る場合には運が悪く、下回る場合には運が良いとみることができる。BABIPは、このように、投手の好不調が、こうした運の良し悪しによるのか、それとも実力に起因しているのか、判断するために用いられることが多い。

これをみると、今シーズンのジョンソン投手のBABIPは際立って高く、.300を大幅に超えており、かなり不運と言える

むろん、BABIPは純粋に運不運を示す指標ではなく、以前より打者に捉えられやすくなっている可能性も否定できないが、ただ、もしそうだとすると被本塁打率も高くなっているはずである。しかしながら、本塁打率に関しては、今シーズンの成績は悪くない。やはり運に恵まれていないのである。

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ジョンソン投手のBABIPの推移

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ジョンソン投手の被本塁打率(9回当たり)の推移

勝ち星がつかない状態が続いてもなお佐々岡監督がジョンソン投手に信頼を寄せるのは、長年の実績というだけでなく、「さすがに現状は不運すぎであり、試合結果が実力を正直に表していない」という判断が働いているのではないか。
ジョンソン投手は長年カープを支えてきてくれた大黒柱である。何としても運と調子を取り戻し、チームの勝利躍進に貢献して欲しい。